昨年春からのコロナ禍によって働き方が激変し、大手紳士服専門店は大打撃を受けた。コロナ以前からクールビズの定着、大企業での「服装の自由化」などによるオフィススタイルの多様化が進む中、リモートワークなど在宅勤務の浸透でスーツ需要の大幅減に歯止めがかからない状況だ。そうした中、主力のビジネスウェア事業の建て直しを図るとともに、異業種の新事業の取り込みが進む。グループ全体のシナジーを狙う。
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フィットネスの新業態
20年前から本業の紳士服専門店に加え、ブライダルやカラオケ・複合カフェなど多角的に事業を展開してきたAOKIグループは、19年6月から複合カフェ「快活クラブ」を運営する快活フロンティア(旧ヴァリック)の新業態として、24時間営業のセルフ型フィットネスジム「FiT24」をスタートした。「健康志向の高まりからフィットネス市場は6年連続増加しており、働き方改革やライフスタイルの多様化により、利用者の生活リズムに合わせてトレーニングできるジムの需要が増えている」とみている。今年4月に新店を相次ぎオープンし合計60店を超える予定。
青山商事も子会社、グローブ(広島県福山市)がファストフィットネスジャパン(東京)とフランチャイズ契約を結び、「エニタイムフィットネス沼津中央店」のフランチャイズ1号店を19年秋にオープンした。当初計画ではフィットネス事業は5年後、フランチャイズ50店体制、売り上げ30億円を掲げていた。これは青山商事グループの事業領域拡大と店舗複合化の役割を担う。同時に、これまで「洋服の青山」の店舗敷地内の余剰地を有効活用した飲食事業のフランチャイズビジネスを推進してきた同社は、近年の健康志向の高まりを受け、会員制フィットネスクラブの運営を開始した。沼津中央店は、既存の売り場面積の約3割を改修したスペースに開設する新たな形態の併設店舗。出店コストを大幅に削減すると同時に、集客面での相乗効果を狙ったものだ。
青山商事の青山理社長は「これからはECとの連動や店舗運営のデジタル化によって、店舗面積を減らしても大丈夫なビジネスモデルを構築していく。さらにはフィットネスなど別事業への活用も計画する」と強調。こうした従来の〝一本足経営〟から脱却する考えは、今年3月に発表された新中期経営計画でも同様の方向性が示されている。
新たな働き方を支援
リモートワークなど多様化する働き方に対応する新たな事業として、青山商事はシェアオフィス事業「ビー・スマート」の1号店を東京・水道橋に20年秋にオープンした。同店は「洋服の青山」水道橋東口店を約5割縮小してできた余剰スペースに出店することで、売り場を有効活用した。働く男女が集う場であり、ビジネスウェアを提案する場でもあるため、相乗効果が期待できる。
AOKIグループも新業態として、今年2月からシェアオフィス事業「アオキワークスペース」を立ち上げ、1号店「たまプラーザ店」、2号店「相模大野駅前店」を3月1日にオープンした。既存事業の「AOKI」や「快活クラブ」と連携しながら、関東郊外を中心に5年後をめどに100店舗の開業を目指している。コロナ禍により社会が大きく変化し、働き方の多様化は一層進み、シェアオフィスへのニーズも急速に高まっている。そうした状況下で、新たな働き方を支援するサービスとして、通勤する職場でもなく、在宅勤務でもない新しい働き方ができる郊外駅前型サードプレイス、アオキワークスペースをスタートした。今後はファッション事業の郊外立地にネットカフェやフィットネスなど複合型店舗を運営することで効率化も見込める。
AOKIホールディングスの青木彰宏社長は「ファッション、ブライダル、エンターテインメント(ネットカフェ、カラオケ)の3事業それぞれが20年以上経営し、顧客がついていることが大きな強み。横軸で連動することで新たな顧客創造が可能になる。厳しい環境だからこそ、新たなコンテンツが生まれるチャンスでもある」と前向きだ。
異業種の新たな事業に挑戦できるのも、長年にわたり紳士服専門店としてパーソナルな接客サービスを提供してきた販売現場のスタッフの力があってこそだろう。アフターコロナを見据え、主力のビジネスウェア事業に次ぐ、第2、第3の事業を育成するためにも、これまでリアルで培ってきた現場力が大きな財産になるはずだ。
大竹清臣=本社編集部メンズ分野担当
(繊研新聞本紙21年4月5日付)