尾道市と福山市でブティック3店を運営するイリヤは創業30周年を記念して、JR福山駅に誰でも弾いて楽しめるピアノを寄贈した。日本国内では駅舎でのピアノ設置は珍しく、通勤、通学のほか、鞆の浦や尾道観光での乗降客が待ち時間に、その音色を楽しんでいる。
同社は洋服を文化と捉えた事業を進めており、流行にとらわれない上質服を創業時からプロパーだけで販売している。30周年の記念事業も「セールなどのサービスではなく、地元の福山、尾道の文化レベルを向上させるものがしたい」(佐藤尊志社長)と考えていた。
佐藤社長は仕入れや観光で欧州を訪れた際、オランダのアムステルダム中央駅やイタリアのパレルモ空港などに、誰でも自由に楽しめるピアノが設置されているのを見て感動した。ぜひ地元でも〝駅ピアノ〟を実現したいと思い、福山市を通じて、福山駅に働きかけてきた。
福山駅は当初「ピアノを置く意味が理解されにくい」「アナウンスが聞こえにくくなる」などを懸念。だが、5月2~4日の「ばらのまち福山国際音楽祭」第1回開催に合わせ、4月13日から5月末までの期間限定で新幹線コンコースへの設置を決定。設置初日には除幕式と、福山市を中心に演奏活動をしているピアニスト、村上裕亮さんの演奏会を開いた。電車を待つ人が自由に演奏を楽しむなど、地元、観光客ともに好評で、設置は無期限に変わり、現在も楽しむことができる。
設置ピアノのテーマは〝人生に豊かさを見いだす美しい音色〟。「一人でも多くの方々の人生を彩ってくれるものになればと思う。ホールなどが少ない福山市で、生の楽器の美しい音を聞く機会ができ、福山駅を単なる交通アクセス場所ではなく、ロンドンのコベント・ガーデンのように文化を発信するような集いの場にするのも夢。こうした活動は洋服で文化を伝えるという当社の理念と共通する」という。
19年3月には同社発祥の尾道でも新駅舎が完成する予定で、同社は尾道駅にも駅ピアノ設置を呼びかけている。設置場所などの課題もあるが、福山駅の実績もあり、前向きに検討されている。