2016年のカレンダーも残り少なくなってくると、この1年の出来事を振り返りたくなる。
世界各国それぞれに変化の時を迎え、次なる未来に向かっていく中、ブラジルで開催された「リオデジャネイロオリンピック2016」(第31回オリンピック競技大会)は、さまざまな感動の瞬間を与えてくれたように思う。選手たちの真剣な面持ちやココロに響くコメントの数々…。
そこで、今回のCINEMATIC JOURNEYは「未来をもっと輝かせるためにできること」をテーマに、まずは2016年の気分にリンクするブラジル映画『ストリート・オーケストラ』の話題からスタート!
オリンピック開催時からスタートし、今現在も全国で順次公開中の本作は、ブラジル最大かつ南半球最大のメガシティとも称されるサンパウロを舞台に繰り広げられる実話。
失意の底にあった一人のヴァイオリニストが、スラム街の学校でヴァイオリン教師を始めることにより音楽が与えてくれるチカラ、感動と希望が荒れた生活を送る生徒たちばかりか、自身の成長へとつながるヒューマンドラマというあらすじだ。
ちなみにスクリーンで披露されるモーツァルト、ラフマニノフ、ブラームスなどの名作の数々を奏でる感動の一幕を彩るのは、本作のモデルとなった実在の青少年によるエリオポリス交響楽団、また南米随一と名高いサンパウロ交響楽団!
未来へつづく夢が重なるシーンといえそうな...
ところで、前述のエリオポリス交響楽団を組織する、青少年に無料で音楽教育を行うNGO「バカレリ協会」。その設立のきっかけは、1996年にエリオポリスで発生した大火災だったという。
そしてまた当協会に大きく影響を与えた活動が、実は他にある。それは1975年、ベネズエラで生まれた音楽教育プログラム「エル・システマ」だ。
そしてこの活動は、日本でも「エル・システマ ジャパン」により展開されており、2012年3月に設立されている。その目的は、東日本大震災により厳しい状況にさらされた福島の子どもたちに、夢と希望を与えることだったそう。
現在、「相馬子どもオーケストラ&コーラス」を筆頭に、持続可能な活動が続けられている中、しばしば国内外から訪れる演奏家等との交流は、子どもたちにとって大きな励みとなっていることを今春、相馬市で開催された公演に訪れた際、痛感した。
それは、パリを拠点にソリスト、室内楽奏者として演奏活動を行っているアルバニア出身のテディ・パパヴラミ氏と、同じくパリを拠点に活動するピアニスト萩原 麻未氏の初共演による特別チャリティーコンサート&交流の一コマだ。
とりわけパパヴラミ氏によるヴァイオリンのワークショップ、また子供たちとの共演による『カノン』。その心が一つになって生まれる感動の瞬間は今なお忘れない。
ほぼ80%は1人で練習を行うため、孤独を感じます。が、共演者に会い、一緒に演奏する喜び、そして演奏する中で音楽そのものを演奏する喜び、また素晴らしい音楽家の作品と共に生きていられる幸せをいつも実感しています
と、語るパパヴラミ氏が肌身離さず愛用している名器は、なんとLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン貸与の1727年製ストラディヴァリウス“Reynier”!
その音色の美しさは、少年時代から波乱に満ちた半生(自叙伝『ひとりヴァイオリンをめぐるフーガ』参照)を音楽に未来を託し生きてきたパパヴラミ氏ならではの、熱き魂が宿る技の極みであることは言うまでもない。
続いて向かう先は、「2015年香港映画年間興業収入No.1」に輝いた、前作同様実話に基づくシネマ『小さな園(その)の大きな奇跡』
「資金不足で閉園危機に迫る香港郊外の村の幼稚園の園長に、元有名幼稚園の女性園長が着任!」というニュースを知って以来、頭から離れなかったと言う本作監督エイドリアン・クワン。
園長兼教員兼用務員...言うなれば、
「幼稚園の運営全て一人で!」(月給4500香港ドル)
そんなお仕事を請け負った熱きスーパーウーマン、ルイと5人の園児の物語。時に笑って、時に涙して、小さいながらも家族を想う女の子たちのハートに触れた時、ルイの未来への展望がクリアになっていく。
エリート幼稚園の園長ならではのエグゼクティブな着こなしも、また「なりふり構わず」とは言わないまでも、カラーコーディネートなど「おしゃれ気分」が見え隠れするアクティブスタイルもフィットする、トップシンガーにして「香港映画のラブコメ女王」としても名をはせる女優、ミリアム・ヨンは、看護師として病院に勤務していたキャリアの持ち主。
故に誰かをケアする役柄は、案外ナチュラルに演じられるのかも?
一方、ヒロインを温かくサポートする夫役のルイス・クーはモデル出身だけあり、どんな着こなしもお手モノと言えそうだ。また私生活では腕時計コレクターらしく、時計と服をコーデするなんてこともしばしばとか。
他方では、チャリティ活動に熱心なことでも知られ、2008年5月に発生した四川大地震をきっかけに「ルイス・クー慈善基金会」を設立し、すでに中国の貧困地区に60を越える学校や医療所を建設したという。そうした側面もあり、本作への出演ばかりか、製作出資をしたというのも彼らしいのだろう。
『小さな園(その)の大きな奇跡』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中!
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そしてゴールはロンドン!ときに「嵐が丘」の舞台ヨークシャー・ムーアが、ストーリーにインパクト与えてくれる『マイ・ベスト・フレンド』
おそらく女子の多くは感動の涙に違いない本作は、幼なじみで親友のミリー(トニ・コレット)とジェス(ドリュー・バリモア)が紡ぐ、愛おしくて、切なくて、そして心に響く物語。見たところ正反対な二人が、それぞれの今と真剣に向き合い、大切に生き、そしてその時々をシェアしてきた。
そんな二人が直面する、運命の別れ道。それはミリーの乳がんの発覚、そしてジェス念願の妊娠。大好きだからこそ口にできない言葉の数々に込められた思い...。
観る者それぞれの思い出と重ね合わせながらあたりを見渡す時、ふと忘れていた何かが見えてくるような気がする。
まさに胸キュンな物語の主人公ミリーなのですが、それとは相反するかのようにモードなファッションをクールにまとう彼女。ヘアウィッグを選ぶシーンも含め、どんな時も前向きに生きるエネルギーは、
❝自分以外の誰かの未来をもっと輝かせるために❞
体現できることなのかもしれない...そんな思いがよぎった。
病床でジェスに贈る、購入したまま履くことのなかった「クリスチャン ルブタン」の美しい靴が登場するシーンは、センチメンタルになり過ぎない演出が心憎い。
このほかエンドロールをチェックすると、
Karl Lagerfeld, Paco Rabanne, Anya Hindmarch, COACH…
ずらりとつづくブランドリストも、ぜひお見逃しなく!
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中