東日本大震災で大きな打撃を受けた東北は縫製業が集積し、アパレル業界を支える地域だ。岩手県や宮城県の沿岸部は津波、福島県は原発事故の被害から立ち上がり、復興への歩みを着実に進めている。
地元の縫製工場が一丸となって産業を活性化、人材確保・育成に力を注ぐ。
産業の復興をリードしてきたのが、北いわてアパレル産業振興会(16社)。昨年春には「北いわて仕立て屋女子会」を発足した。産学官が連携し、今年2月末に地元で開いたファッションショーで作り手自らがモデルとなり作品を発表した。
仕立て屋女子会では、普段ミシンを踏んでいる20~30代女性がデザイン画や型紙設計などを学び、ゼロからオリジナルの洋服作りに挑み、モチベーション向上を目指した。作品は盛岡の百貨店、川徳でも展示されることになり、縫製業の人材確保・育成だけでなく、イメージアップにもつなげる。
振興会の森奥信孝(岩手モリヤ社長)代表理事は「北いわてをアパレルの聖地にできるよう被災地から発信を続けたい」と話す。地元で続けてきたアパレル企業と縫製業のビジネスマッチングフォーラムも一昨年から東京で開催、盛況だった。被災直後は工場の仕事がなくなり売り上げがゼロの期間もあった。当時「仕事が最大の支援」と訴えた森奥代表理事。
岩手モリヤは昨年、復興庁から成功事例の一つとして表彰を受けた。「今後も厳しい環境は続くが、作り手の誇りを持ち、安心して働ける工場にするため、地元の行政とともに歩んでいきたい」と強調する。
今春、福島県・相双(相馬市と南相馬市)地域の縫製工場に、県内外の若者の就職が目立ち始めた。縫製業者8社が組織する南東北ファッショングループの催しを通じ、物作りに関心を寄せた若者が中心だ。
相双地区の沿岸部は、護岸工事などのインフラ整備が進むものの、繊維産業などは人手不足もあり、復興は十分ではない。そのなかで、同グループは昨年11月、南相馬市の中学・高校生、福島・宮城県内の服飾専門学校からデザイン画を募集し、相双地区の縫製工場が製品化してファッションショーを開き、地場の物作りの魅力を発信した。
多くのデザイン画の応募があった高校の卒業予定者が今春、就職を決めるなど縫製企業への新規採用が進んでいる。
企業側の意識にも変化が表れ始めた。有力工場の一つ、福装21の土田拓三執行役員は人材採用の傾向について、「これまでは〝待ち〟の姿勢だったが、この間の催しで県外の服飾系専門学校などともつながり、自ら積極的に採用活動を行うようになった」と言う。
同グループは福島県内でショーを継続する方針。今秋の開催に向けては郡山、飯野からも参加予定。福装21の笠原忠雄会長は「催しを通じて同業者の連帯感が生まれた。今後も内容を充実させて業界の発展に貢献する」と話す。東北を包括して縫製業者を組織し、国内縫製業の活性化を目指す。
(大竹清臣、北川民夫)