この春、繊維・ファッションビジネス業界の一員となられた皆さん、おめでとうございます。様々な選択肢のなかで、自立への道に踏み出した皆さんに、心からの賛辞と歓迎の言葉を贈ります。
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皆さんが、この業界に進んだ理由は何だったでしょうか。ファッションや物作り、人と接することなど、「好き」から入った方が多いことでしょう。自分が夢中になれるものや心ひかれるものを職業にできることは、素晴らしいことです。
一方で、周囲から理解を得られにくく、寂しい思いをした方もいるでしょうか。「日本は人口減と高齢化の波にさらされ、苦労する業界だろう」とご家族に心配されたかもしれません。
しかし、心配には及びません。世界に目を向けると、繊維・ファッションは成長産業です。経済産業省の調査によると、世界のアパレル市場の合計収益はコロナ禍前の19年に1兆8000億ドルで、その後も着実に伸び、25年には2兆3000億ドルと試算されています。
衣食住の基本である衣類は、世界の人口増加に伴って常に必要とされるからです。それだけではありません。人々の暮らしが豊かになればなるほど、ファッション性や機能性が求められ、商品のバリエーションも広がります。一人ひとりの「好き」を満たすため、素材から最終製品まで、各段階で開発や工夫が繰り返されます。こうして、市場は彩りを増していきます。
ここに、業界の大事な特徴があります。市場が独占も寡占もされないという点です。最終製品が消費者に渡るまでの流通経路が長く複雑なためでもありますが、限られた企業で市場を牛耳ることはできません。逆に、アイデアや手腕しだいでヒット商品を生むことも、ブランドや企業として成長もできます。個々の自由で柔軟な発想や確かな技術が生かしやすい業界と言い換えても良いでしょう。
「目は一代、耳は二代、舌は三代」。この言葉を皆さんに贈ります。視覚で勝負する画家などは本人の努力で成せるが、音楽なら親からの影響が大きく、味覚は祖父母の代からの環境に左右される――そんな意味でしょうか。私が入社当時、あるアパレル企業の会長に教えていただいたものです。「この業界は耳や舌では決まらない。頑張りなさい」。そう聞こえました。
皆さん一人ひとりの可能性に挑戦しがいのある業界です。皆さんの思いや行動で魅力を増していく業界の姿を報道する日が楽しみでなりません。長くお付き合いいただけますよう、よろしくお願いいたします。
(編集局長・若狭純子)