「ソーシャルグッド」を掲げ、社会課題解決への貢献を目指す乃村工芸社。環境、文化、地域、人といった四つの領域で進めているが、同社の担う商業施設などの空間作りの分野でも持続可能性は欠かせない視点になった。そうした状況のもと『サステナブルマナーブック』を作成、内側から意識を変える取り組みを本格化した。
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クライアントの要請もあってサステイナビリティー(持続可能性)につながる空間作りは進めてきました。しかし、そのプロジェクトごとの取り組みになっており、属人化してしまうこともありました。それに、脱炭素、生物多様性の維持、ごみ削減など立場によってすべきことの意識も分かれます。乃村工芸社として明確にするフェーズにきていると感じ、社内の基準を作りたいと思いました。
もちろん基準といってもルール、法律、規制ではありませんから「マナー」という名称にしています。緩やかではありますが、方向を示す灯台のようになればと考えています。
例えば、再生材も複合されていれば、最後には埋めるしかなくなりますが、単一素材ならリサイクルできます。長寿命化も大事です。マナーブックではそうした選択肢を示しています。
GX(グリーントランスフォーメーション)が求められ、脱炭素などで法制化が進みそうです。そうなった時にスムーズに移行できるよう備えることもマナーブックを作る狙いの一つ。
作成に当たっては、自然と調和するデザインの建築家、ファラ・タライエさんの監修を受けました。半年にわたり、社内の様々な部署の人を呼び、当社の課題を探ったりもしています。
サステイナビリティーの基礎知識が蓄えられましたし、グローバルスタンダードで考えることができたと思います。もちろん規制が厳しい欧米と異なりますし、いきなりではハレーションも起きますから、当社の仕事のプロセスに合わせたアウトプットを心がけています。
そういった点で伝えたいのはマインドセットです。私たちは例えば大量生産、大量消費で成長してきた中で、人中心にものを考え、環境のことは置き去りにしてきたように思います。マーケティングに洗脳されている気もします。そうしたことに対して、設計の発想に地球中心を加える、地球も消費者の一人として考えようということです。
設計の段階で考えることができれば効果は大きいでしょう。海洋プラスチックで作った板材が上質な飲食店に採用されました。社会問題となっているごみを資源にするだけでなく、その板材を作る過程にもストーリーがあり漁師さんの持続可能性につながりますが、形になったのはデザインの力です。
マナーブックによって少しずつでも変化が起こせればと思っています。
(繊研新聞本紙24年2月28日付)