「デザイナーは環境への配慮ばかりを求めていない」というのは、店舗用ディスプレーハンガーを主力とするコーベルの尾崎功社長。世界的に〝サステイナブル(持続可能)な社会の実現〟が叫ばれ、同社にもバイオマスプラスチックを使ったハンガーへの問い合わせが増えているが、「私たちはあくまでブランド、その店舗のイメージや品位を損なわないデザインで、使いやすいハンガーを提供することが第一」と強調。「それを大前提に環境負荷の低減に貢献する製品も提供する」と語る。
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当社では5年ほど前から環境配慮型の商品開発に本腰を入れてきました。その成果の一つがバイオマスプラスチックを使ったハンガーで、一昨年から本格的に販売を始めました。このバイオマスハンガーシリーズは21年度のグッドデザイン賞を受賞。開発で当社が重視したことが評価されたと思っています。それは環境配慮だけを目的にしないこと。その上でディスプレーハンガーの役割をしっかり果たせる物であり、長期に安定供給できる体制があること。従来品と価格が著しく乖離(かいり)しないことです。その条件のもと、既存の生産設備を活用して従来の石油由来のプラスチックハンガーと同等の使用感、品質を実現しました。
販売本数は年間で数十万本規模に拡大しています。世界でも知られた日本の著名なデザイナーブランドが既に全量を切り替えましたし、ほかのデザイナーブランド、有力スポーツブランド、大手紳士服小売業などにも採用が広がってきました。バイオマスハンガーは備蓄販売をしていますから、1本から購入可能。環境配慮型商品を気軽に購入しやすい仕組みがあれば、企業やブランドが環境保全に向けた具体的な活動を後押しできるのではないかと思っています。
4月に東京で開かれた「サステイナブルファッションEXPO」には、バイオマスプラスチックハンガーシリーズのほか、新たに石灰石を主原料にしたハンガー、植物由来で生分解性を持つPLA(ポリ乳酸)100%の生分解性バイオマスプラスチックハンガー、プラスチック製品の生産工場で発生する廃プラスチックを再利用したマテリアルリサイクル原料100%のハンガーを訴求しました。なかでも生分解性バイオマスプラスチックハンガーに対する関心が高かったという印象です。
ほかにも紙が主原料のハンガー、竹製のハンガーもありますし、将来的に当社の製品は全て何らかの環境に配慮した物に変える方針です。とはいえ、私たちの一番の目的はハンガーにかけた洋服が売れること。環境に配慮した商品を作ることを優先しているわけではありません。使いやすく、店舗、売り場になじむ、あるいは目立たせて目を引くなど、お客様の要望に応えながら、最適な材料、製法で柔軟に開発していきたい。
環境に配慮していることをわかりやすく訴えたいわけではないというデザイナーさんは少なくありません。あくまでファッションの楽しさ、装う喜びを提供することを第一に考えています。私たちは、お客様が望んでいる実用性やデザイン性を環境のために我慢しなくてもいいように、これからもスタンスを変えずに商品開発を進めていきたいと考えています。
(繊研新聞本紙22年5月26日付)