スイス人の父と日本人の母を持つアーティストでファッションデザイナーの和・フグラーさんは、スイスを拠点に古いきものを使った洋服を提案している。原点にあるのは、日本の祖母から受け継いだ美しいきものを後世に伝えたいという思い。きものならではの自然を大切にする風習は、ファッション業界における環境に配慮したアプローチにもつながると語る。
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母が正月や七五三に着付けをしてくれたことが、きものに興味を持った最初のきっかけです。生まれは東京。正月に祖父母の家に親戚が集まってきものを着て過ごした体験も印象に残っています。その影響で、11歳でチューリッヒに戻りバカロレアを取得した後、日本に戻って慶応大学で日本美学・美術史を専攻しました。
ファッションには早くから興味を持ち、自分で服を作ることを楽しんでいました。同時に、きものを着ることで自分が変わる感覚が不思議だったので、卒論ではきものが着用者に与えるインパクトについて書きました。チューリヒに戻った後、ロンドンでファッションデザインを学び、伝統文化を現代のファッションにどのように取り入れるかを追求してきました。
きものは、今も大切なインスピレーション源です。日本の祖母から受け継いだきものはコンパクトに畳んで、チューリヒのたんすで大切に保管しています。シンプルなデザインは平安時代からほとんど変わっていない持続可能なものですし、着る人の体形に合わせて簡単に調整できる点も優れています。その柔軟性こそが、きものをサステイナブルなものにしています。
細かく切り込みを入れる洋服と違って、ほとんど切り込みを入れずに仕立てられている点も魅力です。元の反物に戻すことができるので、生地として再利用できます。
その特徴を生かして、反物の「反」に由来するクチュールブランド「タン・クチュール」を制作しています。銘仙などの古いきものをほどいて、モダンなジャケットやワイドパンツに仕立て直したもので、スイスでも人気です。面白いことに、日本人と肌や髪の色が違っても良く似合います。
きものは自然のサイクルを大切にし、季節や集いに合わせて選ぶ伝統があります。例えば麻の葉の模様は生命力や耐久性を象徴し、雲の模様は予期せぬ困難を乗り越える力を表しています。特別な日には、願いに合わせた模様を選んで、格別なエレルギーを身にまとうことができると考えられています。
こういった意識は、現代のサステイナブルな課題に通じます。自分さえ整っていればいいという考え方ではなく、環境と自分を一体にする思考です。環境をリスペクトする賢い服装の風習を、今後も伝えていきたいです。
(繊研新聞本紙24年12月26日付)