アシックスは9月、材料調達から生産、輸送、使用、廃棄に至る製品のライフサイクル全体で温室効果ガスの排出量を1.95キロに抑えたスニーカー「ゲルライトスリーCM1.95」を発売した。これは市販スニーカーのなかで最も少ない排出量という。環境負荷の低い靴をどう実現したのか。
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今商品のCO2(二酸化炭素)排出量は、当社従来品の平均に比べ4分の1以下になります。パーツ数の50%以上の削減や、カーボンネガティブフォームの開発、生産段階での再生エネルギー調達などが相まって、材料調達と製造段階でCO2排出量を約80%削減することに成功しました。もしゲルライトスリーシリーズの全てを同じ仕様にすると、約2100トンのCO2削減につながります。
今回のシューズは、CO2を削減しながら、品質を保てている点も特徴です。例えばパーツ数を減らすとシューズの構造は弱くなってしまいます。構造を強くするにはパーツを硬くしないといけませんが、硬くすると履き心地が悪くなります。しかし、今回ミッドソールに採用した新フォーム材は、構造を維持しながら軟化することができました。また廃材の出ないテープ状パーツも効果的に配置し、補強しています。
当社ではサステイナビリティー(持続可能性)を経営戦略の中核に据えています。30年までにCO2を15年比で63%まで削減するという野心的な目標を掲げ、専門委員会を設置し、そこでの議論が取締役会でも共有されるガバナンス体制を敷いています。一方で現場に権限を与え、そこに経営資源を投下し、ボトムアップで推進してきたのです。
CO2排出の削減と排出量の正確な計算には、委託先工場などステークホルダーの協力は絶対に不可欠です。例えば製造段階での電力消費量を把握するには、工場に対し、これまでブラックボックスだった部分を詳細に教えてもらわなければなりません。今まで問われなかったデータの提供や詳細な生産工程を開示しなければならないことに驚いていましたし、当社としても新しい要求に対応してもらうことに苦労しました。
もう一つ難しかったのが、再生可能エネルギーの調達です。(生産工場のある)ベトナムでは、太陽光由来の再エネが電力供給全体の5%しかないのですが、今回はその状況下で再エネ調達ができました。当社はグリーン調達方針を掲げており、サプライヤーに環境努力を求めています。今回は工場が協働してくれたおかげで太陽光パネルによる再エネ調達が可能となったのです。透明性の高いやり取りや、環境目標の設定、再エネの推進…。今プロジェクトは、サプライヤー企業との新しいパートナーシップのもとで実現したものと言えるでしょう。
(繊研新聞本紙23年10月19日付)