アイネックスは25年秋冬から、残反を天然藍で染めた生地で作ったアップサイクルネクタイを販売する。廃棄を待つ生地をよみがえらせるだけでなく、職人の手仕事で付加価値のある商品にする。日本の伝統技術を取り入れたアイテムとして、インバウンドにもアピールする。
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以前からネクタイメーカーとしてもサステイナブルな取り組みをしたいと考えていました。しかし、コロナ禍で業界全体の停滞もあり、なかなか良い企画が思いつかず、無力さを感じる日々が続いていました。
そんな時に出合ったのが、藍染めを担当してもらっている村田染工です。私の地元、東京・青梅市の企業でもあり、以前から知ってはいたのですが、藍染めはジーンズのように色落ちすると認識しており、ネクタイとは無縁と思っていました。しかし、天然藍は堅牢度が非常に高いと知り、何かできそうだと考えて思いついたのが、ネクタイ生地の残反を藍染めでアップサイクルする企画です。
当社は毎シーズン、豊富な色柄を作る企画力が強みですが、その分、在庫になる生地が出ることもあります。なので、試しに倉庫に眠っているシルクのプリント生地の残反を藍染めしてみたところ、深い藍色からうっすらと柄が透けて見える美しい仕上がりになりました。ネイビーのネクタイはビジネスマンにとって必須アイテム。仕事でもパーティーでも使えるおしゃれなネクタイにするのにぴったりだったんです。
村田染工の藍染めは化学薬品を一切使わず、染料の原料は口に入れても大丈夫なほど安全です。染めに使った水は栄養が豊富なため、畑に肥料として撒(ま)かれています。そうした意味でも環境にとても優しい。また、天然藍で染めた生地は、藍染め生地全体のわずか数%しかない貴重なものです。在庫の生地が、そうした付加価値を持った商品に生まれ変わるのは、サステイナブルなだけでなくビジネス的にもプラスになると思います。当社のオリジナルブランド「ロバートフレイザー」の中心小売り価格は約1万円ですが、藍染めのネクタイは2万円ほどに設定する予定です。
この企画を通して、職人の技術の素晴らしさも伝えていきたい。江戸時代から変わらない方法が引き継がれており、次世代を担う若い人材も育っている工場です。売り場に染色の様子が分かるPOP(店頭広告)などを出して、消費者に見てもらうことも検討しています。
サステイナビリティー、ファッション性と伝統技術の魅力が組み合わさった、自信を持って提案できる企画です。ネクタイ作りに30年ほど携わっていますが、これほどわくわくしたことはありません。まず百貨店から販売をスタートし、段階的に販路を広げたいです。毎シーズン新商品を出して、認知度も上げていきます。1人でも多くの方の手に届けるのが目標です。
(繊研新聞本紙25年5月22日付)