【ファッションとサステイナビリティー】ハイケム PLA「ハイラクト」 欧州で評価、採用に手応え

2023/11/27 05:29 更新


高裕一取締役サステナベーション本部長兼ファッション・アパレル部長

 サステイナブル分野においてスタートアップが市場を広げている。環境配慮型の革新的な素材やデジタル技術開発で、新たな需要を掘り起こしている。社会貢献と経済合理性を追求しながら新しい市場領域を創出することで、繊維・ファッション業界を活性化している。

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 バイオベース100%で生分解性を持つオリジナルのPLA(ポリ乳酸)繊維「ハイラクト」を広げています。中国の豊原集団と提携してPLA樹脂を調達し、日本の改質技術で染色性などを上げたのが特徴です。豊原集団はPLAの生産能力を大幅に拡大する計画で、これによるコスト軽減効果にも期待しています。

LCA対応も課題

 使用済みのハイラクトを燃やした時に発生する二酸化炭素(CO2)は、原料のトウモロコシが生育する過程で吸収したもので、燃やしても差し引きゼロのカーボンニュートラル素材です。このため、当社はあえて〝燃やしてもいい服〟と訴求してきました。しかし消費者にとって、着古した服を燃やすことは心理的ハードルがあり、経済合理性だけでなくこうした心理面も考慮しなければいけないと思っています。

 今年の春夏では「シップス」に採用されたほか、新たに開発した長繊維が「メゾンスペシャル」に使われるなど、製品化が進んでいます。今後の開発方針としては、いろんな素材を同時に手掛けるのは大変ですから、柱となる商材を確立していきたい。例えば、フリース、デニムはそうした柱として期待できますし、それ以外の開発も糸わたの販売先を通じて広げていきます。

アパレルブランドへの採用が広がる(長繊維を使った「メゾンスペシャル」のTシャツ)

 9月にはミラノで開かれた糸・テキスタイルの見本市フィーロに出展し、欧州客との商談も始まりました。ハイエンドのグローバルSPA(製造小売業)が関心を持ってくれており、ハイラクトのコンセプトを評価してくれています。サステイナブルの意識が高い欧州客と話す中で、LCA(ライフサイクルアセスメント)やトレーサビリティー(履歴管理)にしっかり対応していかなければと感じます。

 製造工程から廃棄されるまでのCO2排出算定もそうですし、トウモロコシ栽培の労働環境や灌漑(かんがい)水の使用にも配慮しなければいけません。不当に安い賃金は排除されますから、日本のテキスタイル産業の賃金水準が上がっていくことも重要になります。

資材など多用途へ

 欧州のビジネスが始まるのをきっかけに、初の欧州拠点としてハイケムハンガリーを開設しました。現在はイタリアの代理店に対して日本からコミュニケーションをとっていますが、来年には現地スタッフを入れ、ハイラクトの開発・マーケティングを強化していく考えです。

 アパレル向けを先行しつつ、開発中の高分子量PLAやCO2を原料にした環境配慮ポリエステルといった次世代の素材で欧州市場を狙いたい。これらは出始めは価格が高くなってしまいますから、環境意識の高い欧州での展開が重要になります。

 リコーと共同開発を進める高分子量PLAが実用化できれば、エンジニアリングプラスチック、スーパー繊維といった用途も視野に入ります。今も中国などで「すぐ使いたい」といった要望がありますが、時間をかけて自信のある物を開発し、取り組む先を検討していきます。

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(繊研新聞本紙23年11月27日付)

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