環境保全や人権保護の観点で、日本企業も商品のトレーサビリティー(履歴管理)に注意を払うようになってきた。グローバルブランドとの取引であれば、サプライチェーンのサステイナビリティー(持続可能性)に関する情報開示を強く求められる。そんななか近頃、国内メーカーや商社などが関心を寄せているのが、「ヒグFFEM」。国際団体のSAC(サステイナブル・アパレル連合)が開発した独自指標「ヒグ・インデックス」のうち、製造工程のサステイナビリティーを自己評価できるツールだ。今春、ヒグFEMの認定教育訓練機関となったボーケン品質評価機構の認定トレーナー、木村英司氏に同ツールの特徴や利用メリットを聞いた。
製造工程をスコア化する自己評価ツール
ヒグFEMはアパレル、フットウェアの生産工場のサステイナビリティーをスコア化できる自己評価ツール。自己評価は百数十問におよぶアンケートへの回答結果がもとになる。
質問は①環境マネジメントシステム②エネルギーと温室効果ガス(GHG)③水の使用④排水⑤排気(大気への放出)⑥廃棄物⑦化学物質――のカテゴリーで構成。各カテゴリーに設けられた質問への回答と、証拠となる文書をオンラインプラットフォームにアップロードするとスコアを算出できる。
利用メリットは、製造プロセスでどれくらい自然環境への負荷を抑えているかをスコア化できること。自己評価とはいえ、グローバルに統一された基準に則った評価のため、その企業の取り組み状況を計りやすい。
ヒグFEMは認証ではなく、適合か否かのラインがない。極論すればスコアが100点中10点でもよい。10点なら、次はもっと上の点数を狙おうと改善に意識が向きやすいと思う。比較対象にされることの多い国際認証は、「適合」か「不適合」で評価される。
適合ラインが60点の場合、認証を取得したい企業は労力やコストを気にしながら適合ラインを狙おうとする。認証取得後は「どう維持するか」に意識が向いてしまう。ヒグFEMは継続して改善を促せるツール。まず関心を持って、学び、取り組むことに意義があり、目標を持って改善を積み重ねていくプロセスと、その結果が評価される点がメリットだと思う。
グローバル市場での競争力の足がかり
あくまで自己評価ツールのため、最近はブランドなど発注側が「その自己評価が適切か」を知ろうと第三者検証を求めてくるケースが増えている。SAC加盟企業への要求事項にも含まれている。例えば、サプライチェーンに関わる10%以上(100社の場合は10社以上)の工場は、発注側の指示に基づいて自己評価とともに第三者検証も行わなければならない。第三者検証はSACが認定するグローバルな認証機関が担う。必要な範囲の第三者検証を済ませれば、ホームページなどで外部にスコアを公表することもできる。
ヒグFEMは誰でも使うことができるオープンツール。SAC加盟企業なら上限はあるが無料でダウンロードでき、非加盟なら数百ドルで購入可能だ。ヒグFEMで問われていることを正しく理解し、適切な自己評価ができればグローバル市場へアクセスする足がかりになると思う。
ただし、自社商品がどこでどんな原料を使って、どのように作られているかを把握できていないアパレルメーカーや小売業が利用するにはハードルが高い。また、GHGプロトコル(温室効果ガス排出量の算定と報告に関するガイドライン)に関わる問いがあるなど、環境政策についての知見も必要。さらにヒグ・インデックスは基本的に英語で運用されており、正しく理解するには言語の壁があって難しい。深く理解するにはSACあるいは海外の認定教育訓練機関に問い合わせるしかなかった。
ボーケンが認定機関となったことで、日本語での情報発信や教育訓練が可能になった。当社は参加・体験型のワークショップをオンラインで開き、理解を深めていただいて実践できるよう支援している。