【FBプロフェッショナルへの道】服の素材となる繊維について知ろう

2022/05/05 06:30 更新


 「ファッションビジネス(FB)プロフェッショナルへの道・明日のために」は、ファッションビジネスの業界構造、市場でどんな変化が起こっていて、業界を構成する企業はそうした変化にどのように対応しているのかを分かりやすくお伝えする基礎講座です。ファッション業界で働き始めた人やこれから働くことになる皆さんに向けて掲載しています。

 ここからは、繊維・ファッション産業を構成する各分野を深掘りしていきます。服は企画、生産され、私たちの手に届くまで、とても長く複雑な道のりをたどります。日本の繊維産業は、各プロセスをたくさんの企業が分業することで成り立ってきました。この商品の流れ(サプライチェーン)は川の流れに例えられ、「川上」「川中」「川下」に分けられます。まずは、川上と呼ばれる素材業界を見ていきます。専門的で難しいイメージから、苦手意識を持っている人も多いかもしれませんが、素材は服のデザインや着心地に直結する大事な要素です。昨今はサステイナビリティー(持続可能性)や、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも見逃せません。身近な話題からひも解いていきます。

長く複雑な工程をたどる

Q.最近、様々な商品が値上げされています。服の素材はどうでしょうか?

 A.服の素材も値上がりしています。その理由を説明する前に、まずは素材とは何かを知っておきましょう。

 繊維・ファッション業界における素材という言葉は、広義的に使われています。少し細かく見ていくと、原料から作る「繊維」、繊維を紡いだり、撚ったりして線状にする「糸」、糸を織ったり、編んだりして面にする「生地」に分かれます。それぞれ生産工程は多段階に分かれており、その長い工程の中で付加価値を高めていくのです。


 服の素材で最も生産されているのは、合成繊維のポリエステル繊維です。ポリエステル繊維の製造工程をざっくり説明していきます。

 一般的なポリエステル繊維の主な原料は、石油です。石油の成分からキシレンという物質を取り出し、これに他の化学物質をくっつけ、さらにこれらの物質を何百万個とつなぎ合わせることで、ポリエステル繊維の原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)を作ります。ちなみに、この原料は飲料に使われているペットボトルと一緒です。

 PETを熱で溶かして、細い穴がたくさん開いたノズルからところてんのように押し出し、空気中で冷却すると繊維になります。これを引き延ばしたり、ねじったり(撚ったり)、短くカットして紡ぐなど様々な加工を経て、服の素材に使われる糸になっていきます。繊維の断面の形や撚る回数などによって、風合いや機能といった特徴が変わるので、糸が出来上がるまでの工程だけでもいろいろな工夫が凝らされているんですよ。

ポリエステルは穴がたくさん開いたノズルから溶剤を押し出す

 ポリエステルの糸だけでも、多くの工程があり、いろいろな材料や機械を使っていますね。前述のようにポリエステルの原料は石油由来です。原油や基礎原料のナフサの価格に比例するわけで、この間の原燃料価格の上昇は大きく響いてきます。物流費などの高騰も相まって、これまでの企業努力ではコストが吸収できなくなりました。このため、日本の素材メーカーも相次ぎ値上げを発表しています。

 糸から生地になるまでの工程は次の回で説明しますが、さらに道のりが長く、人手もかかっています。当然、化学的な薬剤や染料も使うわけで、生地段階でも値上げせざるをえない状況です。

広がる素材の選択肢

Q.ポリエステル繊維以外に、どんな繊維がありますか。

 A.表の通り、服の代表的な繊維は天然繊維と化学繊維に大別されます。


 天然繊維は、その名の通り、植物や動物の毛など自然界にあるものが原料の繊維です。植物繊維と動物繊維に分けられます。植物繊維の代表が綿、麻。光合成で生成されるセルロースが主成分です。動物繊維はウール、蚕が吐く繭から紡ぐ絹(シルク)、カシミヤなどの獣毛が挙げられます。綿は綿花からふわふわの白いわたを取り出し、ウールや獣毛は羊やヤギなどから刈り取った毛を紡いで糸にします。

 自然由来の天然繊維に対し、化学繊維は、人の手で化学的に作られた繊維を言います。化学繊維はさらに、原料や製法の違いによって、合成繊維や再生繊維などに分けられます。

 ポリエステルは石油を原料に化学的に合成された物質から作られていると学びましたね。ナイロン、アクリルも同様で、これらを3大合繊と呼びます。

 レーヨンやキュプラ、リヨセルは、再生繊維もしくは再生セルロース繊維と呼ばれます。木材パルプなどの植物由来の成分(セルロース)を溶かし、再び繊維状に形作るためです。シルクのような優美な光沢や肌触りの滑らかさがよく知られていますが、最近はサステイナブルな素材として注目度が高まっています。

 旭化成が世界で唯一生産するキュプラに着目してみます。キュプラの原料は、綿実油を圧搾する際の副産物であるコットンリンターです。綿実にわずかに残る短い繊維で、本来は捨てられるものを活用しているのです。生分解性も備えていて、土に埋めると堆肥(たいひ)化します。製造工程中に使用する銅やアンモニアといった化学物質は回収・再利用するなど環境に配慮した仕組みを構築していることも評価されています。

旭化成のキュプラ繊維「ベンベルグ」は土の中の微生物の働きで分解される

Q.店頭ではよくリサイクルという言葉も見かけます。

 A.先ほどポリエステル繊維の原料はペットボトルと同じという話をしましたね。合繊では、回収ペットボトルを原料にしたリサイクルポリエステルの引き合いが世界的に増しています。日本ではきれいなペットボトルが入手しやすい背景もあり、日本の合繊メーカーは、世界に先がけてリサイクルポリエスエル繊維を開発・販売してきました。フィルム工場などで発生したロスや繊維くずも服の繊維に再生されています。

 合繊に限らず、天然繊維でも、製造工程で発生した繊維くずや切れ端などをリサイクルする動きが広がっています。ほぐして繊維に戻し(反毛)、再び糸を紡いで使います。

 反毛は元々、ウール業界で盛んに行われていました。日本では、ウールの単価が高く新毛の輸入や使用が制限されていた戦後期に、毛織物産地の尾州で発達していきました。この間のサステイナビリティーの機運を受け、「リサイクルウール」「再生ウール」として再び脚光を浴びています。

 繊維はリサイクル以外にも、オーガニック、生分解、石油から植物由来原料への置き換え、動物愛護、トレーサビリティー(履歴管理)など、サステイナビリティーに貢献できる切り口がたくさんあり、それに関わる開発も活発化しています。環境課題を意識したもの中心ですが、それに限りません。資源やエネルギー、労働を結集して生産される繊維は、温暖化や廃棄物汚染、水不足、生態系破壊、労働問題といったあらゆる環境・社会課題と密接に関わっているからです。繊維・ファッションビジネスがサステイナビリティーと切り離せなくなった今、繊維を知ることは大きな助けになるはずです。

サステイナブル素材の選択肢が広がっている(プレミアム・テキスタイル・ジャパン22年春夏会場にて)

 ここで紹介した内容はほんの一部。表の代表的な繊維以外にも、近年はパイナップルやバナナの葉、湖に群生するアシなどを原料にしたユニークな繊維も続々と登場しています。

 今皆さんが着ている服に使われている繊維は何ですか? 服に付いている品質表示タグに書いてあるので、まずは繊維の特性を理解するために、肌触りや着心地と併せてチェックしてみましょう。

(繊研新聞本紙22年2月25日付)

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