欧米企業 黒人社会支援に次々寄付

2020/06/16 06:28 更新


ホールフーズマーケットの入り口に取り付けられたサイン

 3月から4月にかけて新型コロナ患者の治療にあたる医療従事者たちへ多額の寄付をした欧米の企業が、今度は競うように黒人社会へ多額の寄付をし、黒人社会をサポートすると声高にアピールしている。発端は、米ミネアポリスで起きた、黒人男性が警察官に膝で首を8分以上押さえつけられて殺された事件だ。黒人に対する警察の過剰な暴力に抗議する行動が、全米はもとよりヨーロッパにも広まっている。ここ数年の風潮を考えると、それは非常に理にかなっている。どうしてそうなっているのかを理解することは、アメリカのみならず、グローバルにビジネスしていくうえで極めて重要だ。

(ニューヨーク=杉本佳子通信員)

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 アディダスは、①今後4年間で2000万ドルを黒人のコミュニティーのサポートに使う②今後5年間、毎年50人の黒人従業員に大学の奨学金を授与する③アメリカにおけるアディダスとリーボックの新しいポジションの最低30%を黒人とラテン系にし、黒人とラテン系の従業員をより責任のある仕事に就かせるようにする、という新方針3本柱を公表した。

 ナイキは、マイケル・ジョーダンとジョーダンブランドが今後10年間かけて1億ドルを人種平等、社会正義、教育のための組織に寄付すると発表した。傘下のコンバースは、今後4年間で4000万ドルを黒人のコミュニティーのサポートに使うと発表した。

 アンダーアーマーは黒人の従業員たちと話し合いの機会をもち、今回の事件だけでなく、社会的不公平と構造的差別に怒り、不満、疲労をため込んでいることに耳を傾けたとウェブサイトでつづっている。今後の対話の計画を示し、歴史的に過小評価されてきた人たちを雇いサポートしていくとしている。他にも数多くの企業やブランドが、黒人コミュニティーのサポートを次々表明している。

 スターバックスは最初、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命だって大事だ)」と書かれた服を着ることを従業員に禁じたが、ソーシャルメディアで炎上したことから急きょ方針転換。社内の黒人従業員グループと共同でスローガン入りTシャツを25万枚つくり、着たい従業員が着られるようにした。ホールフーズマーケットの入り口には、「ホールフーズマーケットには人種差別の居場所はありません。私たちは黒人のコミュニティーと世界における意味のある変化を支持します」というメッセージが表示されている。

 こうした動きは、ここ数年の重要なキーワード「多様化」「包括的」「民主的」「透明性」の延長線上にある。黒人男性に対する行き過ぎた暴力は、こうした言葉のもつ意味に反している。加えて、今回の事件をきっかけに、奴隷制度廃止後の暮らしと経済を維持したい白人たちが小さな罪で黒人を捉えて刑務所に入れて安い賃金で使う仕組みをつくり、それと共に「黒人は危険、排斥すべき存在」というイメージをつくる構造的差別がまかり通ってきたことが、多くの人の目に触れることになった。抗議デモに参加している人たちは、ミレニアルズ(25歳~39歳)とジェネレーションZ(8歳~24歳)が多く、白人の割合がかなり多い。スマートフォンで撮影されて広まった殺害の映像だけでなく、システム化された差別が「多様化」「包括的」「民主的」「透明性」に逆行していることに衝撃と怒りを禁じえないのだ。言い換えれば、ここ数年多様化や包括性を求める伏線ができていたことが、多くの白人の若者を巻き込んだ大規模かつ長期的抗議活動につながっている。

 アメリカでは、ミレニアルズとジェネレーションZは非常に重要な市場だ。彼らにそっぽを向かれたら、ビジネスは成り立たない。今立場を明確にしなかったら、黒人差別を容認していると受け取られても致し方ない。米『ヴォーグ』誌のアナ・ウインター編集長は従業員にあてたメールで、今まで黒人スタッフの声を十分にくみ取らず、人種的に有害で不寛容なイメージと記事を掲載してきたと謝罪したと、多くの地元メディアが伝えている。

 今後は、従業員の大方が白人だったり、使うモデルが白人ばかりだったりしたら、反感をかうことは間違いない。黒人に配慮した多様性や包括性をどう実現するか、まずはタイムリーに公表することが非常に重要だ。



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