デサント「DISCオオサカ」 〝世界一速いウェア〟目指し開発

2020/10/10 06:28 更新


【ものづくり最前線】デサント「DISCオオサカ」 “世界一速いウェア”目指し開発 基礎研究から製品テストまで

 デサントが18年に大阪府茨木市で開業したスポーツアパレルの研究開発拠点「DISCオオサカ」は〝世界一速いウェアを創る〟をコンセプトとしている。スポーツ競技の世界で勝つための「スピードを追求したウェア」開発と共に、グローバルマーケットでの他社に「先駆けたウェア」を開発する拠点を目指している。同社では商品の企画開発力を「競争力の源泉」と位置付けており、同センターの人員も当初の約30人から現在では50人規模に増えている。

 DISCは「デサント・イノヴェーション・スタジオ・コンプレックス」の頭文字から名付けた。それまで大阪本社などで行っていた機能開発、製品化、品質評価・検証という一連の工程を施設内で完結でき、高機能・高品質な商品をスピード感を持って生み出すことを目指している。産学連携や異業種との共同開発の拠点としても活用して商品開発の幅を広げ、「モノ創りの力」強化によって市場競争力や企業価値を向上させる。

 デサントジャパンの坪内敬治R&D・生産部門機能開発部長は「発売する商品の開発ストーリーを語れる情報発信の拠点としても役割も期待されている」と話す。そのため、施設もガラス越しに見える実験室など訪れるスポーツ選手や被験者、見学者にも「つながりを意識した設計」とした。施設規模は敷地面積2万2220平方メートル、鉄骨造2階建てで、延べ床面積4401平方メートル。

スポーツアパレルの研究開発拠点となる「DISCオオサカ」

■グローバルで勝つ

 同施設の組織は当初の1部3課から、昨年4月には2部4課に拡張された。現在は機能開発部のスポーツパフォーマンス・研究開発課と機能・品質開発課、企画開発部のみらい製品開発課と製品開発課で構成する。現在は新型コロナウイルス感染予防から、可能な人はテレワークを推奨している。

 基礎開発としては、運動解析や快適性などの独自の理論を構築し、新しい評価手法やノウハウの蓄積により商品価値の向上を図る。戦略素材開発では基礎データからエビデンスを基にした独自性のある機能素材を開発する。製品開発ではユニークなアイデアとエビデンス、プロセスを基にグローバルで勝てる差別化製品を開発し、ブランド価値を向上させる。このほか、グローバル安全性基準などグループ全体の品質管理基準の制定、知的財産の取得・保護・活用も行う。

独自のサーマル発汗マネキンでスポーツウェアの機能性を検証

 主な施設内容はクライマート(人工気象室)や人工降雨室、全天候型トラック、型紙作成から縫製までサンプル製作ができるプロダクションスタジオなど。開業後に導入した3Dスキャナーではフィッティングに必要な人体に沿ったサイズを測定できるようにし、3Dプリンターも導入する予定で、人体模型など実験に使う材料もすぐに製作できるようにする。事務所スペースはオープンな造りにして、様々な情報が交じり合うようにフリーアドレス制を採用している。

人工降雨室は「どしゃ降り」や「バケツをひっくり返したような雨」を再現
事務所スペースは個人机のないフリーアドレス制

 同施設の開発素材の第1号としては放熱機能に優れた「クーリストディーテック」を使用した商品を発売した。みらい製品開発課は将来に向けた商品開発を行い、競技系だけでなく、最近ではファン付きウェアなども開発した。製品開発課は自社工場を中心とした競技ウェアや接着縫製などの高機能ウェアを担当するなど同社ではISPOで17年から4年連続でゴールドウイナーを受賞している。

■国内工場とも連携

 同施設のもう一つの特徴が、物作りに関して大きな強みとなっている国内4工場の技術活用だ。各工場は得意分野の商品も違う。それぞれの機能を取り入れつつ、他にない商品開発を総合的に形にしていくのも同施設の役割となっている。「水沢ダウン」で有名な水沢工場(岩手県奥州市)をはじめ、地域的に近い吉野工場(奈良県吉野郡)とも連携を深めている。

 近年の新たな商品開発では自転車競技ウェアやフェンシングウェアも手掛けている。これらも既存の水着やスキーウェアの技術を活用しつつ、各競技のルールに沿ったウェア設計が必要となる。今後も競技向けの技術を用いながら、普段使いもできるウェアに、どう普及させていくかを課題としている。サステイナブル(持続可能な)な観点も不可欠となっており、素材メーカーとの取り組みのほか、従来の合繊に加えて、天然繊維の利用なども検討している。

縫製設備もあり基礎研究から実際の製品にしての評価までできる

《チェックポイント》

二つのDISCで「モノを創る力」追求

 デサントでは、DISCオオサカに続いて18年10月に韓国・釜山で、シューズの研究開発拠点「DISCプサン」を開設した。シューズに関する技術開発とランニングを中心としたハイパフォーマンスシューズのグローバル競争力を高める狙いだ。

 昨年11月に本格的にランニングシューズ市場へ参入したが、同社は他のスポーツメーカーと比べてシューズ売上高比率が15%程度と低いため、さらに伸ばせる余地が大きいと見ている。DISCオオサカではDISCプサンとも研究開発に関する連携を進めており、知財管理やデータ共有にも取り組んでいる。

 他のスポーツメーカーでもアパレルとシューズの専門的なR&D(研究開発)センターを持つ企業は少なく、デサントの商品開発に関する本気度がうかがえる。今後も二つのDISCを活用して「モノを創る力の向上」を追求する考えだ。

《記者メモ》

DtoC戦略にも貢献

 デサントでは従来の卸売事業に加えて、DtoC(メーカー直販)戦略を加速している。DtoCでは、これまでの一般スポーツ市場に向け商品から、よりターゲットを明確化した高機能商品が求められる。こうした目新しい商品を素早く投入するためにも「DISCオオサカ」による研究開発、品質コントロールが必要となっている。

 韓国や中国で販売しているウェアでも日本の高機能商品をベースに、現地でアレンジした企画が受けている。世界のトップチームのイメージを取り入れたタウンユースの商品も人気が高い。DISCオオサカでは、こうした先進的な商品コンセプトのコア作りの役割を担う。

 デサントでは昨年、伊藤忠商事による株式公開買い付け(TOB)によって新しい経営体制となったが、商品開発が企業競争力の根本と位置付ける理念は連綿と引き継がれているようだ。(小田茂)

(繊研新聞本紙20年9月9日付)

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