大学4年を迎えた私は、家業を継ぐことを当然としつつ、他社での経験も重要と考えて大学の師である片岡一郎先生にご相談し、紹介していただいたのが伊勢丹の山中鏆さん(故人)でした。当時専務を務めていた山中さんから、2年をめどに研修生として預かるとお言葉をいただいて新卒入社がかない、そこからが私の修行時代となりました。
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伊勢丹では新入社員として働きながらも、幸せなことに時折、山中さんに面会し直接教えをいただく機会を得ました。百貨店業界で多くの〝後継ぎ〟を見てこられた山中さんの言葉は、この上なく示唆に富むものでした。
「後継ぎ息子は威張るな、気負うな。社員を君付け、呼び捨てはもってのほか」「お客様をよく見て、誰に何を売るか考えよ」「MDの基本は分類整理」「取引先も銀行も、まずはトップに可愛がられよ」「怖れず、怒らず、悲しまず」「万事即一事(万事欲する者はまず一事に専心せよ)」などなど…多くの教えを受けて、山中さんにほれ込んでいた私は、決まった相手もいないのに山中さんに仲人をしてもらおうと決め込み、公私にわたり〝第二の親父〟となっていただきました。
「自分が現役を退いたら、岡田屋を手伝うよ」とまで言っていただいたものの、その後山中さんは松屋や東武の再建に奔走されたのちに帰らぬ人となり、その機会が得られなかったことが悔やまれます。
(横浜岡田屋代表取締役社長 岡田伸浩)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。