バルコス山本敬社長 倉吉拠点に世界ブランドへ

2020/11/09 06:27 更新


【パーソン】バルコス社長 山本敬氏 倉吉拠点に世界ブランドへ

 コロナ禍の影響は受けたもののバッグのバルコスが元気だ。創業した鳥取県倉吉市を拠点に、爬虫(はちゅう)類バッグの販売からスタートし、現在では「バルコス」「ハナアフ」の2ブランドを軸に国内外での販売を広げている。あくまでも物作りにこだわり、地方に依拠しつつも、通販などで全国に顧客を増やしている。今秋には東京証券取引所の東京プロマーケットに上場した。

キャッチーな日本製武器に海外攻める

 ――近況は。

 コロナ禍で閉めざるを得なかった実店舗販売は厳しく、昨年以降、何店舗かがオープンした都内店が特に影響を受けました。一方、地方店は影響がそれほどでもなく、戻りも早かったですね。地方、郊外は車で店まで行けますし、密になりやすい電車に乗る必要もないですから。館に入っていても、例えば米子しんまち天満屋に入っていますが、ここも郊外というか車で行くところです。

 ――これまでの企業戦略の変遷は。

 私は鳥取にUターンしてまずは爬虫類のバッグをホテルなどを借りてイベントで販売していました。北海道から九州まで会場を借りてやっていました。20年ほど前ですが、知人に百貨店で販売してはどうかと言われて、早速、百貨店に電話してお願いしてみましたが、爬虫類をやっている倉吉のバルコスとお伝えするとほぼダメでした。そのころ、ニチメン(現双日)がドイツブランドの「ピカード」をやりませんかと持ってこられたので、版権をとりました。ドイツでバッグ売り上げナンバーワンだったこともあって、今度はピカードの代理店をやっているバルコスですと言うと百貨店との話は進みました。ピカードはすぐに拡販できて百貨店の口座も増えていきました。ただ、ドイツの商品をそのまま持ってきても売れないので、日本向け商品を作らせてもらうことになり、ピカードの中国の工場を使わせてもらって生産することになりました。百貨店は売り場を広げれば売り上げをとれることがわかってきましたから、さらに欧州から「ラウム」ブランドを加えて場所を増やしていったんです。ただしばらくして百貨店の再編があり、売り場も減っていきました。

 15年ほど前に(海外ブランドに依存するのではなく)自分らの商品を世界に発信していこうと新たなビジネスモデルに乗り出しました。ミペルへの出展も念頭に、中国にサンプル専門工場を作りました。そしてミペルに出展しましたが、ひどい結果でした。世界を知ったという感じでしたね。トレンドや生産などあらゆるところを見直して、3回目の出展あたりから日本人を中心に注文を受けるようになりました。欧米はサンプルにはあまり見向きしないのですが、日本人はサンプルを欲しがるので、それも影響したんでしょう。そこから日本でのOEM(相手先ブランドによる生産)の仕事が増えていきました。中には米国のディスカウンターのTJマックスからもオーダーがありました。こうした国内外からのOEMで(コスト競争力が)鍛えられました。

 ――自社ブランドの育成は。

 OEMをやっているころ、自社ではバルコスを始めました。07年に発売した海外向けのハナアフはしばらく普通のトレンドの牛革バッグを出していましたが、その後、日本らしさのある商品開発に見直して拡販に本腰を入れました。発想は日本人の好きな日本製ではなく、外人の好きな日本製ということです。例えば、(モデル、タレントでいえば)日本人が好きなのは水原希子さんで、外人だときゃりーぱみゅぱみゅさんという感じでしょうか。色などはあえてトレンドを考慮せずアニメにヒントを得ました。「ガンダム」(ロボットアニメのキャラクター)のような赤と白、立体感ですね。日本人が京都の舞子さんの格好にそれほど関心が高くないけれども、外国人には非常に関心が高いというようなイメージでしょうか。これがコーテリー(米国)に出して反応が良かったんです。5年ほど前から海外の売り上げが大きく伸び、タイを始め代理店も増えました。その後も非常に評判がいいですね。ハナアフも日本よりも圧倒的に海外で売れています。欧米での展示会にも毎回出展し、ずっと好評です。今年はコロナ禍で中止になり残念ですが。

 ――国内向けは。

 海外向けが好調なことから、国内向けも強化しようと5年ほど前から本腰を入れました。そのころ海外と国内を分けてやっていたんですが、海外はキャッチーに提案して、国内はOEMのノウハウを活用して価格を抑えていこうということにしました。4年前に出した1万円のバッグは非常に人気でした。価格への納得感が大きいことを痛感しています。特に地方はその傾向が強いと思います。

まずは商標よりも機能性、価格重視

 ――これまでの出店政策は。

 5年前に倉吉の本社に併設したショールームを直営1号店としてオープンしました。場所は非常に街外れにありますが、今では全国から来店されています。その後、BtoC(企業対消費者取引)を真剣にやろうとすると、実感があまりわかないところへの出店は難しいのではないかと考え、山陰、山陽から出店を始めました。基本的に路面店かテナントとして出しています。百貨店には出しませんが、テナントに近い形で運営できるところには出しています。

 ――通販の取り組みは。

 ちょうど同時期に通販にも力を入れています。コールセンターとECと店舗で受けています。今年は東京五輪が予定されていたので、通販の広告規模でみると関東が最も大きいのですが、さらに関東で集中的に販売しようと取り組んできました。今では7割が通販売り上げです。実店舗はコロナ禍で全体の売り上げの1割程度になっていますが、通販ももちろんコロナ禍で外出自粛からバッグ需要減の影響を受けています。通販はテレビ、雑誌、新聞、ECなどですが、今後はユーチューブやSNSも活用したいと思っています。自社オンラインサイトは3年前に本格的に整え、伸びていますが、まだまだこれからだと考えています。

 ――コロナ禍とはいえ業績が好調だ。

 1~6月売り上げは前年を4割を超えるペースの伸びで、利益を含めて過去最高の業績となりました。通期(12月期)売り上げは44%増を見込んでいます。

 ――伸びている要因は。

 一番は物作りですね。鍛えられたコストパフォーマンスもそうですし、デザインチームにはお金をかけており、サンプル作成などもそうですし、地味ですがしっかりとやっています。企画にも「マックスマーラ」に在籍していたデザイナーを始め、いい人材が入っています。いずれにしても商標をあまり意識せず、機能性と価格で勝負と考えた方がいいのではないか。ワークマンやユニクロはそこが大きいのではないかと思っています。当社は年4回程度、QVCに出るのですが「トゥデイズスペシャルバリュー」(その日のお買い得企画)に出される商品の中でもうちが最も安いと感じていただけるようです。絶対価格で勝負しています。当社はロングセラー商品が多いのですが、1万円企画も5年間ずっと1万円ですし、例えば2万円のものを後で値下げして1万円にするのであれば最初から1万円でいくという考えです。アウトレットは出していますが(通常の商品の)価格は絶対価格です。

 ――倉吉を拠点にしている。

 倉吉に住み続けたいという気持ちですね。地方で貧しく暮らすというのではなく、美しく豊かに暮らすということです。欧州では地方にあまり貧しさを感じないし、いいなと感じます。地方発のブランドも多い。当社もあまりあくせくせずに、和気あいあいと職住接近で仕事をしています。そんなライフスタイルの方が仕事にプラスになると思います。

 ――今後の店舗のあり方は。

 最近は東京など都心に出しています。コロナ禍の影響を受けており、今後の都心店出店については様子を見ていきたいと思います。今秋は広島パルコに出しましたし、10月にイオンモール岡山に出す予定です。方向性としては昨年、東京の目黒にショールームとしての路面店を出しましたが、ショールーム機能ですね。ただ、その方向に行くにはまだ紆余(うよ)曲折があると思います。19年4月に、ゆめタウン出雲に出店しましたが、ここは地域密着で集客されているいい館だと思います。地方は厳しいといいますが、本当なのかと思うこともあります。既存の店舗も整えながら店のあり方を追求していきたいですね。

 ――上場したが、今後の進路は。

 去年、今年と堅調な数字を出しましたし、今後もちゃんと戦っていくためにも、個人商店から脱却して資金調達もできるようにしておくことが大事ではないかと思いました。まず存在力が、ある程度必要ではないか、そして資金調達はすぐにというわけではありませんが、早めに次のステップへ準備していこうということですね。それから、当面はバルコスブランドの拡大です。世界ブランドを目指していますが、100億円規模には育てていきたいと思っています。まずは国内で存在感を出していきたい。当社は小売りというより物作りの会社ですから、そういう立場でバルコスのあるべき姿を確立していきたいと思っています。

やまもと・たかし 1966年大阪市生まれ、鳥取県倉吉市で育つ。91年、倉吉でバルコスを設立。

■バルコス

 1991年鳥取県倉吉市で設立。爬虫類レザーを使用したバッグを主力とした皮革製品販売を開始、03年「バルコス」ブランドをスタート、07年「ハナアフ」をスタートした。08年にバルコス香港を設立、09年には中国・広州にサンプル工場を設けた。07年からミペルに出展するなど欧米の海外展には継続して出しており、欧米に販売先を広げているほか、アジアでもタイで現地代理店がショップ展開するなど販路を広げている。19年度売上高は32億円。

《記者メモ》

 1~8月売り上げが4割を超える伸びで、コロナ禍を考えると驚異的だ。どういう商品が売り上げを押し上げているのか聞くと、特に何かではなく、おしなべて伸びているという。ロングセラー商品が多く、絶対価格の考え方もうなずけるし、地方での集客の強さを感じたが、通販では細かな販促の仕掛けを行っており、顧客づくりにも注力していることが分かった。

 本社は駅や街の中心から離れているが、社員は職住接近の生活をしている。昼休みには自宅に戻り、昼寝をする人もいるとのことだ。忙しさは避けられないものの、地方だからこそ生活と仕事を両立して豊かにしたいという発想なのだろう。欧州では地方発の有力ブランドも多いが、山本社長はそれを日本でもという思いを語った。

(武田学)

(繊研新聞本紙20年10月9日付)

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