便利でストレスのない買い物体験だけが客の支持を得られるわけではない――90年代~2000年初頭の東京・ストリートファッションに焦点を当てた「あんときマーケット」は、不便で、時に客を分け隔てたりもするフリーマーケット。効率的で〝作業〟のようになった買い物へのアンチテーゼが来場客の熱狂を生む。身内で始めたイベントの第2回は楽天ファッション・ウィーク東京の公式イベントとして開く。
(永松浩介)
主宰は「あんとき(あの時)のストリート」を振り返るウェブメディア「ミミック」。代表はデジタルツールを提供するファナティックの野田大介氏が務める。自身も当時のストリートシーンにどっぷりつかっていただけに、当時と今の買い物体験の差に強い不満があるという。「(効率性を追求する)デジタルマーケティングなどで企業の手伝いをしているからこそ感じていた違和感」。皆が便利や効率だけを追求するなら、店であれECであれ存在感が薄まり、ファッション業界そのものがつまらなくなるとの危惧がある。
6月15、16日に原宿でウラハラプロジェクトとの共催で開催した際は、当時のストリートシーンのキーマンが多数出店した。私物を放出するとあって開店前から客が列をなし、オープンと同時に目当ての出店者に駆け寄った。
事前告知していない数十万円のスニーカーも売れた。「普段は何カ月も悩む値段だが、出合ってしまったものを一瞬の判断で購入してしまう。これがリアルのイベントの価値」と野田さん。
9月6日から開く第2回は、場所を渋谷ヒカリエに移し、「ヘクティック」の立ち上げメンバーや窪塚洋介さんなど、当時の原宿をより彷彿(ほうふつ)とさせるメンバーで構成する。初日の入場に必要なフライヤーはわざわざ店にもらいに行かなければならないためか、フリマアプリで3000円で取引されたケースも。
9月からは有名人の私物を販売する通販サイトも開設した。SNSなどでの告知もしない、いわばゲリラ販売だ。「自分らにとっては当たり前だった、苦労しないと買えない体験をあえて提供したい」。初回は野田さんの同世代の客が半分ほどを占めたが、若い客もいた。試着室も鏡もショッパーもない。苦行のような買い物もエンターテインメントとして捉えていたようだ。