社会のデジタル化を加速させたコロナ禍。ファッション業界もEC強化に拍車がかかる。変わりゆくことがある一方で、変わらなくていいこともある。それは、顔の見えるコアな客層に愛されてきた個店のスタンスだ。オーナーの目利きによるマニアックな品揃えとパーソナルな接客が強みの個店は、今こそ再評価されるべき存在だろう。
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■パーソナル貫く
東京都が週末の外出自粛を呼びかけた3月末以降、吉祥寺のセレクトショップ「ブラックブリック」は営業してきたが、来店客はほとんどなかった。それでもEC売り上げが伸びて経営を支えた。SNSでの発信はもちろん、実店舗とアウトドアイベントなどを通じてファンとの信頼関係を築き上げた結果だ。プロデューサーのコバヤシミネユキ氏は「ECが堅調なのはリアル店舗と同様に、ここでしか買えないニッチなモノを集めてきたスタンスがコアなファンに支持されてきたため」と見る。
北関東のあるアウトドアミックスのセレクトショップでは、店長が顧客とともにマラソン大会に参加したり、一緒に走るイベントを開いたりしている。「トレンド追従型の服好きだけではSNSで完結してしまうが、スポーツはリアルなつながりが強みになる」からだ。体を鍛えることでカッコイイ服が似合うようになり、「奥さんから褒められ、夫婦円満で仕事も頑張れるという好循環」を生み出す。店長は「20~30代男性客の自分磨きをサポートしたい」と〝男の料理〟イベントを行い、ギフトのアドバイスなど女性や家族を幸せにするための接客を重視する。
数年前から安易に生活雑貨を扱っただけの表面的なライフスタイルショップが増えたが、顧客の人生に寄り添い、応援し続ける濃密な関係性から学ぶべき点は多いのではないか。
■熱狂の場はリアル
デジタルネイティブな若い世代にとっては、バーチャルな接点が身近な分、逆にリアル店舗でのやり取りが新鮮なようだ。10代後半~20代前半の男性客の来店が増えている地方のショップも目立つ。90年代ブームの再燃もあり、40歳前後のオーナーが青春時代に体験したストリートカルチャーの話を生で聞く若い顧客の姿は真剣そのもの。その熱量を共有できる接点が「デジタルなのか」「アナログなのか」をコロナ禍で問われることになったが、個店の商売はリアルが基本で変わらないはずだ。
自らのリスクで仕入れて自ら売る個店のスタイルは小売業の原点。だが、過剰在庫にならないように販売できる量を見極め、無理な拡大を狙わず、利益が確実に確保できる仕入れ量を継続することは簡単ではない。有名ブランドだけに頼らず、自分の選択眼で発掘した新しいブランドでも共感の輪を広げられなければ店の存続も危うくなる。不特定多数を相手に規模の拡大を追求するなら、別の事業を始めた方がいいのかもしれない。
多様化が進む時代、中小店が万人を狙うのは難しい。限定的に見えても、熱狂的なファンの心に深く刺さる店作りを貫き通すべきだろう。
(繊研新聞本紙20年6月26日付)