ファッション業界の採用は新型コロナによる環境の悪化や業績不振などで、減少傾向が続いていた。しかし、アパレル消費の回復傾向と、この間の採用の抑制が続いたことなどで売り手市場に変わってきている。そこで、今回は「ファッション・アパレルの人材関連のサポート企業に聞く」がテーマです。
キャリアの道筋示しジョブ型に対応を 24年春採用は完全復活
MORIパーソネル・クリエイツ社長 澤田勘志さん
ファッションに特化した人材ビジネス総合企業のMORIパーソネル・クリエイツ(東京)は、「企業の新卒採用は22年春入社が底で、24年は1・5倍から3倍の採用数になっている」という。学生の採用環境や就職への思いの変化が見られ、企業も採用活動への本気度や切り替えが必要という。採用の現状や変化、今後について澤田勘志社長に聞いた。
■採用予定人数3倍も
――事業内容は。
企業と学生や転職希望者をつなぐサポートを行っています。特に、デザイナーやパタンナー、生産管理など本部機能の人材紹介が主です。販売職は登録者は少ないですが、経験者で本部勤務を希望する人が登録するケースが多いです。最近ではECやウェブの人材を求める企業が増えています。
ほかにはマイナビと共同で「ファッションビジネス(FB)就職セミナー」の開催や人事担当者の勉強会「ファッション・ビジネス・グッドカンパニークラブ(FBG)」、コンサルティング事業、人事制度や新卒採用の募集、教育や再就職支援などを行っています。
――採用状況、環境は。
23年と24年春卒は新卒採用が完全に復活しています。採用人数はコロナ禍でも減らさなかった企業は横ばいで、それ以外の企業は1・5倍から3倍ほどになっています。FBG参加企業の22年10月時点のアンケートでは、24年春採用予定人数はSPAやセレクト企業で23年の25人から70人、70人から300人など、各社が大幅に増やしています。大手中心のアンケートですが、中小企業も含めて同じ傾向のようです。
20年春卒の採用は3月の新型コロナで大騒ぎになりましたが、すでに内定を出していました。様子見だった21年春は減らし、22年春はコロナ禍が想定以上に長引き採用ゼロの企業も。23年春は少し増えて、24年春は以前に戻すような感じです。
企業の構造改革や新型コロナによる実店舗閉鎖などが一段落したのが22年の途中からで、そこから採用を増やす傾向になっています。この2年、採用を抑えたので実店舗人員の欠員が出て、店頭から本部に人材を移動できない場合もあり、全体的に採用増の動きが見られます。
――学生の動きが鈍くなっている。
辞退率(FBGへのアンケートから)は21年春卒採用の販売職で約21%から、23年は約45%で、予想では24年は50%を超える見通しです。ここ数年の採用人数が減少傾向の場合は辞退率が低下するのですが、逆に上がっています。
ほかの産業は22年から採用を増やしており、アパレルは採用に乗り遅れています。採用環境が大きく変化し、23年春卒からは売り手市場で、24年春卒は超売り手市場になっています。そのため、他産業でも内定辞退が増える傾向になっています。学生は売り手市場と知り、最近は動きが鈍くなっていることも影響しているようです。内定承諾に時間がかかるようになっており、24年春卒の傾向も変わらないようです。
■もっとグローバルに
――業界と学生をつなぐ取り組みは。
FBGで、業界で活躍する先輩社員と気軽にコミュニケーションが取れる「キャリアデザイン塾」を行っています。2月には東京と大阪でリアルで開催。昨年はオンラインで開催しましたが、企業のニーズはリアルでとの意見が多く、「互いに直接会った方が良かった」と好評でした。参加企業は例年通りで、東京が11社、大阪10社。学生の参加は想定を下回りましたが、1回約40人が集まりました。
FB就職セミナーはコロナ前は東京・大阪・名古屋・福岡で開催していましたが、今年は14社限定で東京会場だけです。来年は地方開催も含めて、元に戻していきたいと思っています。
――学生や業界に向けて。
これからは肉体労働はロボット、頭脳労働はAI、感情労働は人が行うと言われています。ファッションは感情をベースにした仕事です。90年代はフランス、イタリアに続いて3番目のファッション大国と言われ、日本に留学する学生も多かった。その日本をもう一度取り戻したいとの思いがあります。
そのためにも若くて優秀な人材が業界に必要です。現実は地元志向の学生が増え、自らの可能性をつぶしていると感じています。日本の人口は減少傾向で、もっとグローバルになって欲しいと思っています。
学生の思考がジョブ型に変わってきています。定年まで勤める意識ではなく、やりたい職種で働きたいとの傾向が年々強まっています。総合職だから「何でもしなさい」ではなく、キャリアップの道筋を示さないと大切な人材を失うことになります。企業は人材を経営課題の大きな柱とし、働く環境や待遇改善を常に行ってほしい。特に女性が多い業界なので、育児支援などを行うべきです。一番大切なことはジョブローテーションや社員への評価をしっかり形に表すことです。
(繊研新聞本紙23年3月15日付)