丹青社がサステイナビリティ―の取り組みを新事業開発につなげている。築古ビルをリノベーションする「R2」は、大量の廃棄物が出る建て替えではなく、使い続けることで環境負荷を低減する取り組みだ。事業化のめどを付け、5月8日にリブラ東日本橋(東京都中央区)のテナントの募集を始めた。さらにこのR2は、自身でビルを買い取ってリノベーション、リーシングする形になっており、商業などの空間作りでにぎわいの演出を請け負ってきた同社にとって、これまでの領域から踏み出すものになっている。
100年間使い続ける
R2は「Real-estate Revitalization」(不動産再活性化)の頭文字をとって名付けたもので、事務所としての平均寿命が50年余りとなっているRC(鉄筋コンクリート)躯体(くたい)を、物理的耐用年数の100年間使い続けることをコンセプトにする。スクラップ・アンド・ビルドに比べ、廃棄物や二酸化炭素の排出量を低減できる。70年代などに建てられ、対応が必要とされている都心部の物件は少なくないが、同社は大手不動産などが手掛ける大型の再開発につながりにくい小型のビルに機会を見いだした。
リブラ東日本橋も50年以上前の73年に建てられたもので、地下1階~地上7階の延べ床面積は540平方メートルと小型。老朽化したビルのリノベーションは、耐震補強工事はもちろんのこと、電気、給排水、空調などの設備の更新、内外装と多岐にわたり、さらにここでは4階までだった建設当時からの油圧式エレベーターを取り換え、7階まで延ばす必要があった。


24年2月の着工から1年余りかかることにはなったが、それでも工事費は建て替えの半分程度に抑えられている。「サステイナブルであってもコストがかかりすぎては本末転倒」(松本康靖事業開発センター事業開発統括部R2プロジェクト室室長)と環境負荷低減と併せて、フルセットアップの賃貸オフィスとして備え付ける家具や照明はリユースで用意するなどしている。

事業化を前倒し
リブラ東日本橋では既存の飲食店が入居を続ける地上1階を除く7フロアをリーシングするが、すでに2フロアで契約・申し込みに至っている。利便性の高い立地で同社のノウハウを生かして雰囲気を含めて刷新したビルの評価は高い。
同様のリノベーションの第1号で24年3月に完工したウィンド小伝馬町(東京都中央区)は、1年間のリーシング期間を見込んでいたが、半年ほどで満床になった。これにより年間120~130の物件が持ち込まれるようになっており、大手を含めたディベロッパーの関心を集めるが、期待していた賃料収入が前倒しで確保されたことから、事業化の判断も前倒しした。20年に立ち上がったプロジェクトで、25年度までは検証期間とする予定だったが、ウィンド小伝馬町の成功で24年度中に事業へ位置づけを変更、物件を手当てする予算も確保して開発を加速することになった。これまでは年間1棟程度の開発を想定していたが、第2号のリブラ東日本橋に続いて、3月に着工、年内完工を見込む第3号、このほど取得して来年着工予定の第4号がすでに進行している。いずれも東京都中央区の物件で、まずはエリアを絞って拡大を目指す。
応えるメニューも
いったん壊すことが不可欠なディスプレーを担うだけに同社の環境負荷低減への課題感は強く、24年2月にはパーパス「空間から未来を描き、人と社会に丹青(いろどり)を。」を定め、サステイナビリティ―への取り組みに力を注いでいる。来場・来店者に意識を醸成する空間作りといった演出はもちろん、リサイクル可能な建材の開発、解体材再利用の仕組み作り、各種認証取得のサポートなどクライアントの要望に応える多様なメニューを揃えてきた。アダストリア「ラコレ」では扱う美濃焼の廃棄・不良品をフィッティングルームの仕上げ材にアップサイクルするなどもある。
さらに建材、装飾材などの廃番品のECサイト「フォーアース」も運営している。新商品の発売に伴って通常では売れなくなる型落ちを商流に乗せることで廃棄物を減らすもの。21年にインテリア関連メーカー10社と連携してスタートしており、小規模案件中心ではあるが販売実績を積み上げ、連携先は40社に広がっている。
今後も、R2だけでなく、サステイナビリティ―の要請に対応する機能を充実することにしている。
(繊研新聞本紙25年5月22日付)