ウェールズの老舗ファクトリー(阿賀岡恵)

2014/01/08 00:00 更新


2014年はじまりました!今年もこれまでどおり、誠実に、健康で一生懸命働き、常に小さな挑戦は忘れず好奇心の赴くままに、新しい経験を取り入れ価値観をシェイクして、変化することを恐れず、それでも自分らしくいられたら幸せだな、と思います!

で、年始にぼんやり初志を思い返していました。誰しも何か大きな一歩を踏み出す時には、そこには「きっかけ」や、その人なりの「ドラマ」があると思うのです。私にも一応そんなような事がありまして、ま、大した事ではないのですけどね、私が12年間も靴下デザイナーを続けているのは、もしかしたらこの人たちと出会ったおかげかもしれない、という出来事がありまして、今回はそれをご紹介します。20代後半の時のイギリスでの遠足日記です。

AYAMEを始めるちょうど前の年、2006年、今から8年前の春頃、私は南ウェールズにある老舗ソックスファクトリー「Corgi」を訪れていました。コーギー社は120年以上の歴史を持つ、王室御用達にも認定されている英国を代表する高級ニットメイカーです。今でも、ひとつひとつハンドマシンニットの伝統的な手法で生産をしており、この道30年のおばちゃん達がすごい手さばきでハンドニットマシーンを動かしています。ロンドンから二泊三日の小旅行、この旅で私の脳みそと心は大きく揺さぶられ、次の年(2007年)にはAYAMEを旗揚げしました。

こんな素朴なB&Bがポツーンのある村、グレートブリテン島の西部、ウェールズの片田舎アマンフォードというところです。




さて、工場の中に潜入。この時、デジカメが壊れていたので紙焼き写真です。

ここは横編み機でニットウェアを編むセクション。ホントに手作業で、5コース編み進むごとに分銅(おもり)を一回一回かけかえて、、、という気が遠くなるような作業です。



 どこのブランドの編んでるの?と質問したら「マーガレットハウエルよ、ナイトメアーよ!」と冗談っぽくウィンクしてくれました。

 


余談ですが当時の私の英語力はというと、ゥェアディッジューゴゥトゥディ?(Where did you go today?)と、ハウスメイトの英国人からネイティブスピーカーが普通に話すスピードで聞かれても聞き取れず、Wa?Say again?(何?もっかい言って?)と、聞き返すぐらいのレベルでした。若さってステキですね、今ならそんな英語力で通訳もつけずに他人様の会社を訪れるなんて迷惑な事とてもじゃないけど出来ないです。つまらない大人になってしまいました。笑

ここはリンキングのセクション。中央の人はニットウェアのリンキングをしていますが、右の人(切れちゃっていますが)は、靴下のリンキングです。ここにも伝統的な手作業で生産されている現場が。

 


コーギーソックスの魅力は、その、ひとつひとつ手回しで編まれている柔らかであたたかな風合いや履き心地ももちろんですが、この美しい色使いにもあると思っております。この工場の裏手には、常時何百色ものカシミアやコットンの糸巻きがストックされています。その糸庫の美しさと言ったら圧巻で、何でこんなにキレイな色が出るんでしょうかね?と質問したところ、「水だよ」との事でした。

北イングランドのヨークで紡績されている糸だそうです。北イングランドといえば、スメドレー家もそうですね。うんうん、糸の発色と編み目の美しさが「Corgiらしい」商品の面構えを生み出します。マーシャライズコットンのハンドマシン編みのソックスと言えば、コーギー社の看板商品ですものね。それに、他では真似できない手作業や技、ものづくりへの思いがあって。思うところ多し、でした。

ディレクターのクリスさんと2006年当時の私。


 


二泊三日の小旅行、ちょうどワールドカップ・ドイツ大会の時だったので、日本VSブラジル戦を一緒にパブで見たり、なぜか社長(父上様)のお宅にお邪魔して、孫のジョシュアくん(当時5歳)と遊んだり、中華を食べに行ったり、楽しく過ごした記憶です。

クリスさんとはパブでサシで飲んでる時にいろんなお話をして、私の人生相談みたいになったりして、日本で企業デザイナーとしてハードに働きすぎて疲れてしまってこの仕事が好きかどうかわからなくなってきてしまった、と話すと、でもキミは今回ここに来て、工場を見て、機械をさわって技術者と話をして、とても楽しそうに見えたけど、また色々やりたくなったでしょ?見たり触ったり感じたりすることは、いつでもやる気とひらめきを起こさせることなんだよ、だからここに来たんでしょ、キミが何か作りたい時はいつでもここに来たらいいよ、と、当時は全てクリアに聞き取れなかったので意訳ですが、そんなような事を言ってくれました。

この当時、私は既に会社を辞めていたので、彼らにとっては、たった一人でやってきた何の後ろ盾もない日本人の珍客だったのですが、すごく親切にしてくれました。そんな王者の貫録と余裕がある、とっても素敵な人達だったのです。そんなこんなで、この方々との出会いは、私が今のようなスタイルで、今でもこの仕事を続けている理由のひとつなのです。ちなみに何用で訪問していたのかというと、何とワタシ就職活動をしていたのですね。そんな怖いもの知らずで図々しい若き私のエピソードはまた違う機会に。笑

クリスさんは今でも節目の時に私からメールすると、いつも温かく返信してくれます。ブランドを立ち上げた時や、初めてセルフリッジ(英国の百貨店)に入って、コーギーの靴下と一緒に陳列されて嬉しかった時も。AYAMEが得意とするハイゲージニットとはまったく違う、ローゲージが持ち味のコーギーソックス。いつか彼らと一緒に仕事がしてみたいなあ。10周年までの目標にしようかな。

貫徹するほど何か固い決心のあった初志ではないけれど、あの時感じた事はその後もずっと心に残り続けています。見たり触ったり感じたり、食べたり飲んだり笑ったり、そうやっていつでも楽しみながらやる気とひらめきを感じていられたら、ほんとうに幸せなことだなー、と当時を振り返り、そんな事を思っていた正月休みでした。

皆さまにおかれましても、ステキな2014年になりますように!


気鋭の靴下ブランドAyame’の活動記録。現在年2回、東京、パリ、ニューヨーク、ロンドンにてコレクションを発表、Made in Japanの靴下を世界に発信中 あがおか・あや/Ayame’socksデザイナー/桑沢デザイン研究所卒/2007年Ayame’設立



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