ファッションテキスタイル分野のリーディングカンパニー、スタイレム瀧定大阪は、パーパス「人々にワクワクを 産業にソリューションを 環境と社会にサステナビリティを」を策定、実践している。パーパス策定の狙いや思い、目指す企業像などを瀧隆太代表取締役社長に聞いた。
永続に必要なのは
―パーパスを策定した理由は。
社長に就任して今年で16年目になります。自分がやりたいと思っていた経営に近づいてきました。それは、企業としてのスタンスや考え方、大事にしていることなどを社会や社員に示した上で、それを実現していく、軸がしっかりとした経営です。
企業にとって利益は大事です。未来への投資や社員の生活を良くしていくことが必要ですから。しかし利益の追求だけでは世の中から必要とされ、存在意義がある企業にはなれません。自分たちは何者で、何を大事にし、どこを目指すのか。その軸があるからこそ、社員にとってはスタイレム瀧定大阪で働くことの理由になり、取引先、社会から必要とされる存在になれると考えています。
パーパスの策定は22年ですが、コロナ前の19年にプロジェクトチームを立ち上げ、ミッション、ビジョン、バリュー、スピリット、スローガンを切り口に、過去、現在、未来を通じて大事にしたい価値観や共有すべきことなど議論を重ねました。
我が社の歴史を紐解き、先輩方が築いてきた強み、特に暗黙知と呼ばれる言語化されていないノウハウや価値観、自分たちのDNAをコトバで表す、言語化したらどんな言葉になるかを議論し、突き詰めました。
―言語化にこだわった理由は。
共感してもらったり、社内での“あ・うんの呼吸”を短時間で理解、共有するのに必要だからです。“あ・うんの呼吸”を仕事の中で伝えようとすると時間や手間がかかりますよね。当グループは大阪、東京に加え、海外で拠点を増やしており、グローバル化をさらに進めます。様々な国の人が働いており、パーパスを言葉で示し、共有することでスタイレム瀧定大阪グループで働くことの意味やその強さを共有できます。
―世界情勢の変化が激しい。
だからこそ軸が大事です。軸がしっかりしているからこそ変わることができるし、変化していかなければなりません。コロナ前から議論を始めて本当に良かった。自分たちが何をすべきか、どこを目指すのかが見えていましたから。
解決すべき課題と向き合う
―パーパスに込めた思いは。
「人々にワクワクを」では、顧客の先にいる世界中の生活者が、それぞれの好みや感性に合ったファッションやライフスタイルを楽しめるように貢献します。繊維・ファッションビジネスの原点ともいえる、人々の生活を彩る存在になることに真正面から取り組みます。ファッションビジネスは大事な産業です。この産業の奥深さを伝えていくことは重要な課題のひとつです。
「産業にソリューションを」「環境と社会にサステナビリティを」では、ファッション、繊維産業が抱える課題の解決とサステナブルな社会の実現を目指します。たくさんある課題の中で10年、20年かかってでも必ずやり遂げないといけないのはサステナビリティ(持続可能性)。繊維・ファッション産業でいえば特に大量生産・大量の消費、廃棄を前提にしたビジネスモデルからの脱却です。量で勝負するのではなく、良いもの、欲しいと思ってもらえるものを作る。逆に言うと必要とされないものを作ってはいけません。そのためにはこれまでも強みとしてきた、何が売れるかを見極める力を持ち、それを元にリスクテイクする。売れる生地をストックし、ニーズに応じて必要な量を素早く市場に提供する。この力をさらに磨きます。
AI(人工知能)を使った需要予測で7、8割は回せるかもしれませんが、そこに面白さはないかも。残り2割、ここでワクワク感を生み出すことができるかが重要で、存在意義にもつながります。
妥協せず二兎を追う
―環境に配慮した取り組みが進む。
インドで取り組むトレーサビリティー(履歴管理)を確保したコットン「ORGANIC FIELD(オーガニックフィールド)」が重点のひとつです。種の選定から綿花の栽培、糸の生産までをオーガニックのプロセスで当社が管理し、環境面での持続可能性と人権問題解決に貢献します。
ニーズが高いオーガニックコットンの栽培を増やし、無農薬で育てることで農家の人の健康被害を防ぎ、労働環境と自然環境の改善につなげることができます。手前味噌ですが、良い取り組みだなと思うのは、無農薬でありながらも生産性を維持し、品質も高い点です。良い取り組みであっても、生産性が落ちたり、品質が低下すると実際には使ってもらえず、広がらない。環境に配慮しながら、生産性、品質面でも妥協しない点が重要で、インドに現地法人を構え、ノウハウを蓄積して改善を続けるからこそできることです。
プロジェクト開始から2年が経ち、植えた種がわた、糸となり、やっと今秋から顧客の店頭に商品が並びます。糸質、発色が良く、素晴らしい商品に仕上がっています。オーガニックの垢抜けないイメージを覆す、滑らかな肌触りや光沢に驚いてもらえるはずです。
―産業の発展にはデジタル技術の活用が欠かせない。
海外、特に中国では、商品企画の工程から店頭投入までフルデジタル化する動きが強まっています。日本のファッションビジネスは立ち遅れていますが、いずれそのようになるでしょう。あと数年でデジタルネイティブ世代が社会にでてきます。そうなれば確実に変わります。今のビジネスのやり方を見て、「ファッションビジネスは終わっている」と思われたら最後、誰もこの産業に来てくれなくなるでしょう。
EC、デジタルファブリックの活用では、5000品番ある生地を少量から購入できる会員制ウェブストア「スタイレムファブリックストア」を立ち上げました。従来のBtoB(企業間取引)に加え、スモールBの引き合いが多く、新規顧客が開拓できています。ニューヨークで立ち上げた米国法人や開設するパリのショールームなど、数少ない社員で欧米など広いエリアで販売するツールとしてもデジタル化、ECでの販売は大きな武器になります。
生地の質感を表現する画像データと物性データを組み合わせて作成した「デジタルファブリック」は我が社だからできる強み。このデジタルファブリックを活用すればクリエーションのプロセスをフルデジタル化することができます。実際のところ「最終サンプルは実物で確かめたい」などアナログが求められる工程やニーズはあるので、デジタルとアナログを上手く融合しながらデジタル化を進めていきます。
いずれにしろデジタル化やサステナブルの動きは必須の条件です。顧客に半歩先、1歩先を示すことで、取り組みやルール作りなどで頼られる存在になってきました。パーパスを実践し、独自性を発揮することで、さらに“頼られる”“必要とされる”存在、企業になりたいですね。
企画・制作=繊研新聞社業務局