【トップインタビュー】 株式会社マツオカコーポレーション 代表取締役社長 CEO兼COO 松岡典之氏(PR)

2023/09/06 00:00 更新


 1956年に広島県上下町(現在の広島県府中市)で創業したマツオカコーポレーション。1982年に韓国、1990年に中国、そして2000年代にはミャンマーやベトナム、インドネシアのASEAN(東南アジア諸国連合)地域やバングラデシュに進出。1990年に中国へ生産移管して以来、縫製の世界地図の変化に合わせ、他社に先駆けて海外での生産拠点を整備してきた。近年ではベトナム、バングラデシュで生産拠点の多元化に向けた設備投資が進展。「欲しい時に欲しいものを欲しい量」届けられる生産体制の実現と、「世界一の縫製工場」を目指すマツオカコーポレーションの松岡典之社長に、現状とこれからについて聞いた。

「あらゆる服づくりの舞台裏に私たちがいる」

―世界のトップを目指し、縫製技術を高めてきた

 これまで培ってきた技術やノウハウの進化は顧客があってのことで、協力関係を築きながら新たな顧客を開拓していければと思います。新規顧客の開拓も進める中で、とくに素材背景という視点で興味を持ってもらうケースが増えてきました。素材の調達から一貫してやって欲しいという要望が高まっており、日本で培った品質へのこだわりが海外でも生きてきています。いつでもどういった生地でも扱えるようにしておく必要がありますし、素材の現地調達ニーズが高まってもそれは変わりません。かつての垂直的国際分業の時代から、コロナ禍による物流の混乱や地政学的リスクの拡大を経て、サプライチェーンが再編成、再統合されつつあり、新たな形になっていくのではないでしょうか。

 米中関係の悪化が長期化している影響もあり、例えばバングラデシュでの生地からの一貫生産や、パキスタンの生機を活用したスキームが模索されるなど、中国からASEAN、バングラデシュへと生産地の移行がより一層すすむ中、私たちとしてもASEANでの素材背景をしっかり持たないと、顧客のニーズを取り込めなくなってしまいます。海外における素材調達のノウハウがある日系商社との連携も深めていく必要があるでしょう。素材調達を含め、生産地や生産アイテム、納期といった顧客のさまざまなニーズを、舞台裏で支えられる存在でありたいと考えています。

拠点多元化し多彩な商品

―中期経営計画の進捗や各拠点の状況は

 中計第一期の2年間はベトナムやバングラデシュでの新工場設立など、次の成長に向けた生産体制の整備拡大を進めました。23年度からの中計第二期は、受注をどれだけ伸ばしていけるかという時期に入っています。今期はかなり厳しい見通しを立てていましたが、個人消費やインバウンド需要の復調や、流通在庫の消化が進みつつあることもあり、「くもりのち晴れ」といった好転を期待しています。中計最終年度の25年度には売上高700億円、新設した工場の稼働率を上げることにより最大生産能力は7000万枚を目指しています。

新たな成長を実現するため、エンジンとなる新工場のフル稼働を目指す

 前期までの2年間でベトナム、バングラデシュにおいて工場を新設したことも寄与し、足もとでは両国ともに生産量は相当増えてきましたが、期待する水準までは至っていません。中期経営計画で掲げた目標に向け、当社の成長エンジンとして、今後のさらなる成長に期待するところです。先行して完成したベトナムの新工場は、順調に操業していますが、生産ラインはまだ拡大の途上であり、受注状況をみながら、順次増やしていく計画です。べトナムに引き続き、バングラデシュの新工場においても、生産体制を拡充し、利益貢献できるよう体制整備を強化します。

 2024年3月期第1四半期時点で、中国以外のASEAN諸国等での生産は売上高で6割程度にまで伸長しました。これはかねてより当社が進めてきた生産地シフトが着実に進捗していることを示しています。一方で、中国での生産比率は4割程度になってきましたが、グループ全体を俯瞰した場合、結果的にバランスが取れたと感じており、今後も中国での生産を無くすわけではありません。これから増やすとなると難しいかもしれませんが、適時生産や豊富な素材背景、短納期を実現するためにも必要性はまだまだあります。

 また、ミャンマーは地政学的リスク等を懸念する顧客も一部見られますが、ニーズがないわけではなく、業績は堅調です。当社のマザー工場という位置付けだった中国での生産を縮小していく中、中国に次いで進出したミャンマーで蓄積された縫製ノウハウを横展開するため、技術者を海外派遣するプロジェクトを進めています。例えば、バングラデシュの工場での自動化ハンガーを使った縫製システムの導入にあたり、ミャンマーの技術者に活躍してもらう予定です。

顧客のさまざまなニーズに対応できる生産体制の整備と強化を進める

―生産拠点が増え、品種構成も変化してきた

 カジュアルのボリュームゾーンの生産が当社の強みの一つですが、顧客からのその他のニーズにもお応えし、多岐にわたるアイテム構成への対応力も向上しています。最近ではバングラデシュでユニフォームアパレルからの受注が拡大、難易度の高い製品の縫製なども増えてきました。ベトナムの新工場を中心としてハイエンドな製品にも取り組み、生産できるアイテムのバリエーションも広がっています。多拠点で多彩な商品を生産できる強みは、当社の優位性として今後さらに磨きをかけたいところです。

 また、拠点が増える一方で、生産の可視化も進めています。工場を巻き込んだ形でシステム構築を進めており、来年の完成を目指しています。生産進捗管理がグローバルで見える形になり、非常時の縫製の再配置など対応力が一段と上がる見込みです。

生産拠点地図

女性の社会進出に貢献

―縫製業の今後は

 豊富な労働力とコスト競争力を求めてバングラデシュまで進出してきましたが、今後も、新たな場所で縫製をしてほしいというニーズがあればミャンマーやバングラデシュといったところから技術者を派遣するなどの対応を検討していくことになると思います。縫製業に求められることは変わりません。次に向けてどこが求められる場所なのか、模索を続けていきます。

 国によって環境は異なりますが、縫製業の無い国はありません。その中で、日本人ならではのクオリティで、ニーズに合ったものづくりができるというのがマツオカコーポレーションの強み、「メイドインマツオカ」のものづくりではないかと自負しています。先日、欧米の顧客がバングラデシュの当社工場を訪問され、生産している製品を紹介したところ、「バングラデシュでこんな品質の製品がつくれるのか」と驚いていただけたことは大変うれしかったですね。どこでもクオリティの高い製品をつくれるというのが私たちの目指しているところ。これからも、私たちの取り組む「メイドインマツオカ」のものづくりを通じて、こうした驚きと感動を世界中の顧客に伝えていきたいと思います。

 そうした中で、雇用・労務管理も大きなテーマになってきます。例えばバングラデシュのイシュワルディ工場には今2000名を超える従業員が働いていますが、従業員のお子さんの通う小学校を見学にいったところ、ブリキ造りというか、風が吹いたら飛んでしまうような状況でした。そこで、校舎の改装工事費用を寄付し、次世代の教育につながるような支援を実施することを決めました。年内には完成する予定と聞いています。こうした支援はかつて中国でも実施していました。日本を離れ、海外で事業を行う企業として、教育に限らず、その地域に根差した活動は続けていかなくてはなりません。

 イスラム教の国家では特に、まだ女性の社会進出が難しい面があり、縫製業はそれを支える大事な仕事の一つだと感じています。これは私たちが上下町で創業したころから変わっていません。農家の女性の副業として縫製業があり、私たちもそうした女性たちに支えられて会社を成長させることができました。先日には、支援を決めたバングラデシュの小学校の子どもたちを、当社の工場見学に招待し、お父さんお母さんが働いている職場を実際に見てもらいました。将来を担う子どもたちに縫製工場で働きたい、と思ってもらえるようになることが、私たちの成長、縫製業の未来のためには必要なことです。これからも、地域の方が安心して働ける工場づくり、地域社会に根差した企業を目指してまいります。


株式会社マツオカコーポレーション

https://www.matuoka.co.jp

企画・制作=繊研新聞社業務局


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