【トップインタビュー】株式会社GSIクレオス 代表取締役社長執行役員 吉永直明氏(PR)

2023/07/19 00:00 更新


GSIクレオスは昨年、「パーパス」―次代の生活品質を高める 事業の創造者として 人びとの幸せを実現する―を新たに制定した。そのパーパスに基づいた経営を進める。吉永直明社長に目指す企業像や今後の事業展開、また人材に関する考えなどを聞いた。

アジアの成長取り込む

―パーパスを作った理由は。

 当社は2001年に「存在理念」を定めていますが、当社の存在意義を社内外によりわかりやすく示すため、コンパクトにまとめたものを新たにパーパスとしました。私が社長になり、この5年間でやってきたこと、将来に向けてどうあるべきかが全てパーパスで表現できます。社員一人一人がパーパスを明確に意識し、それに沿って行動することが大切なので、社員がパソコンを立ち上げた時に和文、英文でパーパスが表れるようにしています。パーパスの実現を目指すことで企業に一体感が生まれ、日々の行動が変わり、事業の内容が変わってくる。その結果として、収益力や社会貢献度が上がり、企業価値の向上につながると思っています。

―成長の道筋は。

 世界、特にアジアの成長を事業に組み入れることが大切です。東南アジアや急成長が見込まれるインド市場の需要を積極的に取り込みたいので、新たな拠点設立も検討中です。アジアなどの新興国の成長の仕方は、我々が経験した経済成長とは異なります。経済成長に伴って汎用品から付加価値品に需要が移るのではなく、付加価値品を含めた多種多様なニーズがすでに混在しています。遅れるわけにはいかない。特に工業製品は経済成長の過程で必ず必要とされます。

―中国事業を再編した。縮小するのか。

 いえ、販売を伸ばすために組織をシンプルにしました。GSI中国社と今後成長が期待できる半導体事業専門のGSIテクノロジー社を軸に事業を再編し、自ら統括することでスピードアップを図ると同時にリスクにも備えます。中国での繊維事業は、特殊糸を使ったニットなど新たな商材を生み出し、伸びています。規模の大きさに加え、付加価値の高いものができており、手応えを感じています。

 一方、GSI深圳社はGSI香港社が統括し、香港社を軸に繊維、工業製品ともに事業を拡大します。

―サステナブル事業の進捗は。

 前期からの3カ年経営計画「GSI CONNECT 2024」の重点施策のひとつにサステナブル(持続可能な)事業への積極投資を掲げ、「環境」「生活・健康」「エネルギー」分野で事業を深耕・拡大します。

 環境分野では、メーカーとの協業でサステナブル原糸、生地の開発や製品化を進めています。

 サトウキビ由来の原料を使った高強力ポリエチレン素材「バープランツ」の開発もその一つ。従来の石油由来品と比べて二酸化炭素の排出量を約70%削減できます。耐切創手袋から始め、ニットや布帛生地の試作を進めています。また、生分解性プラスチック「マタビー」は農業向けで市場シェアを拡大します。

新開発した植物由来原料を使った高強力ポリエチレン素材「バープランツ」など環境に配慮した商材や事業に積極投資する

 エネルギー分野で面白いのは、薄くて軽くて曲がる透明な有機太陽電池。建物のファサードや窓など様々な場所に設置でき、広範囲の太陽電池化を進める切り札になると期待しています。

軽くて曲がる透明な有機薄膜太陽電池(OPV)

 生活・健康分野では、ブラジルでの人工透析装置の販売やクリニックへの投資、メディカル繊維製品の開発など、メディカル事業の拡大を目指します。

―ブラジルでの事業がユニークだ。

 苦労はしましたが6年連続で黒字を計上し、事業基盤を確立しました。人工透析装置の販売を礎に部材販売にも手を広げ、出資会社を通じて人工透析の高級クリニックの運営も始めました。今後は小規模クリニックの運営や、病院とのネットワークを活かした医療用着圧ソックスの拡販など、ニーズを踏まえた展開を図っていきたい。クリニック運営から製品に至るまで、南米で「GSIクレオスブランド」を根付かせるという壮大な夢を持って取り組んでいます。

人材が全て

―成長のカギを握るのは。

 当社の命である人材です。社長就任後、一貫して人材教育に力を入れてきました。オンラインで受講できるクレオスアカデミーを立ち上げ、キャリアの階層ごとにきめ細かく研修しています。ベースアップはこの5年間で4回実施しました。

 現在海外に22拠点ありますが、グローバル戦略を進め、各地で市場に入り込むには現地の人材がトップになるのが自然な形。ブラジル社はブラジル人女性に社長を任せて事業が大きく伸びました。韓国社も韓国人がトップです。米国社でも営業部門のトップを米国人に任せています。任せることで働く人のモチベーションが高まり、スピードが増し、市場に深く入り込める。人脈の広さと知見が全く違いますから。グローバルで優秀な人材を獲得するために米国・ボストンキャリアフォーラムに毎年出展しています。

―グローバル人材は定着が難しいのでは。

 だからこそ企業文化やパーパスが重要です。企業風土や目指す方向性を理解してもらい、みんなで実現を目指す。国内外問わず、ハートフルな企業文化や人の良さ、居心地の良さがGSIクレオスらしさです。

 人材教育制度もさらに充実させます。日本から海外への駐在や研修に加え、海外からの研修、勤務制度を今秋から始めます。日本で数年間、本格的に働いてもらうことも想定しています。日本企業で働く外国人の多くは日本文化への憧れがあるので、募集すると手が挙がると思います。今後も人材教育会社の協力も得ながらグローバルな仕組みを積極的に取り入れていきます。

―DXの推進は。

 全社で進めてきました。働く環境や業務フローの見直し、ペーパーレス化など様々なプロジェクトが進行中です。データを集めて分析し、経営判断のスピードが増しました。本社は移転を機にワンフロアにし、一定数のリモートワークを前提にデスクをフリーアドレス制としました。共用スペースを増やした効果もあって、今では部門を超えた対話が進んでいます。

昨年、芝公園に本社を移転。IT環境の強化とユニークで機能的なレイアウトにより、イノベーションの創出をはかる
―中計2年目に入った。

 1年目の前期は繊維、工業製品ともに売上が大きく伸びましたが、繊維で一過性の損失が発生し、営業・経常利益が目標に届きませんでした。しかし、その影響を除けば目標に近い数値だったので着実に前進しています。一番こだわっているのは期初に立てた計画を必ず達成すること。以前とは違いそれができるようになってきたことで、社員にも自信がついてきたはずです。

面白い会社に

―目指す企業像は。

 面白い会社です。繊維と工業製品を扱っていますが、当社の規模で事業を分けて強みが発揮できるとは思いません。一方で両事業の強みを融合すれば、新たな価値を生み出す「事業創造型商社」になれます。それぞれの分野で他社と競うのではなく、両事業のノウハウを融合させることで、当社だからこそできる、当社にしかできない、独自性が生まれるはずです。

 繊維でなかなか進まなかった糸、生地、製品の連動が機能素材を切り口につながり始めています。それぞれの事業で得意分野や価格帯は違っても重なる部分があり、そこからビジネスの連携が生まれます。他のビジネスでも同様です。中期経営計画のテーマは、コネクト。つむぐ、つなぐ、つなげる、です。つなげれば、接点が生まれます。その点を面に広げる。きっとできます。

 面白い会社になるためにどんなストーリーを描くか、毎年夏に開催する役員合宿で徹底的に議論します。立場に関係なく、知と知がぶつかり合うこの場がすごく好きです。ここで決めた方針が、重要な事業計画へとつながっていきます。

 繊維、工業製品のカテゴリーがなくなるほど融合した商社、事業体になれば面白いですし、あと女性が圧倒的に活躍できる会社にしたい。一般的にいえば、商社は未だに男性社会。営業パーソンの半分が女性という商社、面白くないですか?男女、国籍に関係なく、優秀な人が活躍できる会社にします。すでに工業製品や海外では、女性の営業パーソンが増えてきています。繊維はもっとできるはずです。

 GSIクレオスはまだまだ変わり続けますよ。

【profile】吉永直明(よしなが・ただあき)氏
79年グンゼ産業(現GSIクレオス)入社、02年GSIホールディング社社長兼GSIアメリカ社社長、07年取締役、12年常務、17年12月社長に就任。

https://www.gsi.co.jp

〒105-0014 東京都港区芝3-8-2 芝公園ファーストビル16F

TEL 03-5418-2120

企画・制作=繊研新聞社業務局



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