22年春夏パリ・メンズコレクションは、有力デザイナーや老舗ブランドのデジタル配信が相次いだ。デザイナー自身の出身地である街の文化を背景にしたコレクションやジャポニズムの要素を取り入れたデザインが目立った。時代とともに変わりゆく男性服の今をどうデザインするかが問われている。
(小笠原拓郎)
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ドリス・ヴァン・ノッテンは、アントワープの様々な場所を背景にモデルを立たせてシューティングした。フェリーターミナル、教会、石畳、市庁舎前広場、プライマルスクリームの懐かしい音を背景に街のあらゆる場所で撮影した映像だ。それはドリスの「気ままに喜びと自由を感じられる街の生活への感情を込めた個人的なオマージュ」。リラックスしたムードとデカダンスを感じさせるコレクションだ。パウダリーパステルやアシッドカラーといった爽やかな色使いにカムフラージュ柄がコントラストを作る。スポーティーなV字のストライプの切り替えやアントワープを象徴するAのタイポグラフィーのグラフィック。鮮やかな柄の切り替えとテーラーリングの構築性が程よいバランスとなる。デザインチームの撮った写真やルーベンスやブリューゲルの作品のプリントを服にのせていく。それは、アントワープの文化や街の歴史のコラージュ。パーカやトレンチコート、ゆったりとしたフォルムのタキシードやスーツなど、メンズのワードローブがノンシャランなムードに包まれる。テーラーリングとスポーツウェアの柔らかなミックスと、そこに重ねる色柄のセンスが、コロナを経た時代の男性服の在り方を暗示しているように思える。
ルイ・ヴィトンは、ジャポニズムを意識した映像を配信した。日本刀を持ったスーツスタイルのモデルはパンツが袴(はかま)のようなデザイン。ショート丈のジャケットにフレアパンツを合わせたスーツは帯のようなオーバーベルトのディテールになっている。ダミエ柄を取り入れたチェックのテーラードスタイルに、ダミエ柄のストライプを配したトラックスーツなど。メゾンのアイコンを取り入れたアイテムも揃う。ただ、そのジャポニズムの取り入れ方はあまりにも唐突で、それが今のモダンな男性のスタイルだとは思えない。
オムプリッセ・イッセイミヤケは、「ヒューマン・アンサンブル」をテーマにした映像を配信した。「人間のからだ」を一つの構造物として、その力強さと美しさに着想を得た。従来の「多様で普遍的な日常着」というコンセプトを元に改めて体に向き合い、衣服と着る人の間に生まれる調和を探った。再生ポリエステル100%の糸を使ったプリーツ素材に、人間の体のラインから着想したフォルムと素肌の色を掛け合わせたり、斜線を取り入れたり。砂の混ざった絵の具で色を付けた背景に、人間の体を幾重もの曲線で表現したプリントアイテムも出した。再生ポリエステル100%の糸による無縫製ニットはミニマルなデザインにすることで、服の輪郭を浮き上がらせた。
ヨシオクボは、日蓮宗の寺院を舞台にした映像を配信した。読経をバックに、モデルたちが境内を歩くというもの。蚊帳のようなネットのマスク、フロントにマルチポケットを付けたトップ、マルチストリングスの飾り、機能的な装飾を付けたスポーツスタイルは、さながら現代版の作務衣のようでもある。かつて日本に存在した僧兵の姿をテーマに掲げたコレクション。きものと混ざり合うことで特徴的なシルエットやディテールを有していた僧兵の服装に着目し括袴(くくりばかま)のようなワイドショーツ、裳付衣(もつけい)や裏頭(かず)の要素を残したフードブルゾンなど、僧兵の姿にスポーツウェアを重ね合わせた。鮮やかな赤などの伝統的な日本の色とリフレクション素材を組み合わせた。
クレージュは、22年春夏メンズとウィメンズプレコレクションをショー形式の映像で発表した。ニコラス・ディ・フェリーチェによる2シーズン目のコレクションはクレージュらしいミニマルなカットが充実した。1969年のカットアウト、1963年の「アトリエ」チェック、ヘリテージスクエアネックライン、トラペーズドレスといったメゾンのアーカイブを背景にシャープなカットに収めた。白いボックスのような空間で見せたコレクションは、フィナーレになると壁がなくなり実は森の中という演出。
イザベル・マランは、フィジカルイベントに続いてルックブックを配信した。春夏はアウトドアのムードがいっぱい。80~90年代のスポーツウェアのスピリットが着想源だ。アメリカンカジュアルのカラフルな色使い、そこにワークアイテムを組み合わせ軽やかにコーディネートする。