山梨県立美術館(甲府市)は、開館45周年記念の特別展「ミレーと4人の現代作家たち-種にはじまる世界のかたち-」を開いている。現代作家の一人として参加するのが「リトゥンアフターワーズ」デザイナーの山縣良和さん。ミレーが農民の労働や生活を描いたように、創作活動を振り返り、産地の物作りや暮らしを作品にした。8月27日まで。
同美術館は、代表作「種をまく人」をはじめ、開館時からミレーの作品を収集している。「名画はどの時代も変わらない質の高いメッセージを発しているが、現代を生きる作家の作品を一緒に配置することで、それらを媒介し、今の視点で解釈できるのではないか」と同館学芸員の小坂井玲さんは話す。ミレーの画業を伝えるキーワードに基づき、4人の作家が社会との接点を問いかける。第1章の「移動、創造」を担った山縣さんには「ファッションデザイナーとして、『ここのがっこう』を主宰する教育者として、機織りの街の富士吉田に滞在し交流を続けている作家として依頼した」という。
一歩足を踏み入れると、日本の繊維産業と文化を体感できる山縣ワールド。富士吉田産地とともに長崎県小値賀島でも活動するフィールドワークを、19世紀のパンデミック(世界的大流行)を機にバルビゾンに移り住んだミレーに重ね合わせて表現した。自身がデザインした洋服を着せた人形や古い家具とともに、縫製に携わる家内制手工業の暮らしを再現したり、型染め作家の小島悳次郎の反物のアーカイブを展示したり。現役の織機も展示、1924年に創業した舟久保織物の協力を得て、鮮やかな赤の5040本の経糸がピンと張られ、織機を動かす生きた音が響く。会期中には糸を張り替え、「ほぐし織り」で小島悳次郎の作品を再現した生地も展示する。
「産地の物作りも学校の活動も、より自分のクリエイションと地続きな感覚がある。富士吉田に現在も残る「半農半機」の生活様式がファッションにつながっていることを感じてもらえたら」と山縣さんは話す。