ヴィクトリアズシークレット、イメージチェンジの本気度(杉本佳子)

2023/09/22 06:00 更新


 ヴィクトリアズシークレットはここ数年、着々とリ・ブランディングを進めてきた。トップスーパーモデルを広告やファッションショーに多数起用したビジネスモデルが、アメリカで最も重要な市場とされているZ世代の目には偏った女性像として受け取られ、そっぽを向かれて業績が下降し続けたためだ。ここ数年はふくよかなモデルだけでなく、ダウン症の女性もモデルに起用し、多様性・包括性に継続的に力を入れている。

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 そのリ・ブランディングの一環として、今年は「ヴィクトリアズシークレット ザ・ツアー23」と題し、ボゴタ、ラゴス、ロンドン、東京の4都市から20人の女性クリエーターを選出し、自由にクリエーションをさせ、その舞台裏ストーリーとパフォーマンスをミックスした短編映画を製作した。同映画はアマゾンプライムで9月26日に放映される。

 放映に先立ち、ニューヨークファッションウイークが始まる直前の9月6日、午前中はクリエーターたちを紹介するプレビューイベントを5番街のヴィクトリアズシークレット店で行い、同日夜はマンハッタンセンターで大がかりなカクテルパーティーを開催した。そこではジジ・ハデイドとナオミ・キャンベルがスピーチし、クリエーターたちの作品を展示し、ダンスパフォーマンスを披露し、映画を上映。大坂なおみ、ブルック・シールズなどの著名人も参加した。


 東京から選抜された女性たちに「何故選ばれたと思いますか?」と聞いたところ、返ってきた答えは一様に、「ヴィクトリアズシークレットの元々のイメージと全然違うからだと思います」というものだった。全員そういう答えをするところに、ヴィクトリアズシークレットが本気で変わろうとしていることが伺われる。


 ファッションデザイナーとして選ばれたジェニー・ファックスさんは日本在住16年の台湾人。ファックスさんがデザインした10体のうち、2体がプレビュー会場に展示されたが、1つは、「ぶよぶよしたシンプルなフォルム」。ファックスさんは「今43歳で、今の自分の出したかった」とし、自分のからだの型をとり、それを3Dプリントでつくったという。素材はTPU(熱可塑性ポリウレタン)。この服は映画にも登場した。もう1体は、黒のブラジャーを使ったリメイクドレスで、「葬式用のドレス」なのだそうだ。他の服は夜の会場で展示されていた。


 画家の皆藤斎(かいとう・いつき)さんは、インスタグラムからアプローチを受けたという。つくっている作品がからだに関係したものが多く、それが今回のプロジェクトと関係していたのではないかとみている。東京チームとしてどういうものをつくるか皆で話し合い、皆藤さんはセットデザインを担当。ダンスもし、「すごく面白かった。いい形でやりたいことができた」と振り返った。


 ミュージシャンのKOM-I(コムアイ)さんは、歌と曲をつくった。KOM-Iさんは中性的なものを着たり表現したりすることが好きで、全然セクシーでないものを好んで着るという。そういうところが、いろいろなタイプの女性を意識して選ぼうとするヴィクトリアズシークレットの意向にあったのではないかと自己分析している。曲では、農業や漁をする時の掛け声が入っているような歌をイメージ。アメリカ在住の黒人DJのジャマル・モスさんにトラックをつくってもらって、その上に歌詞とメロディーをのせた。彼のもつ遊び心をうまく取り入れ、全然違うものをミックスしたかったということもあるが、「女性だけエンパワメントしても世界は変わらない。男性がいなかったら妊娠できないし、男性の中にある女性性を取り入れるのも面白い」という思いもあって男性を入れたという。「誰でもいろいろな性質をもっていて揺れ動く。自分の中にも男っぽいところ、中性的なところがあり、気分によって変わる」とKOM-Iさん。ヴィクトリアズシークレットに対しては、「女性たちが思い切ってクリエーションできるようにやってくれた」と話す。


 表現者・アーティストのアオイヤマダさんは、役者、ダンスパフォーマンスなどをしてきている。毎朝夫につくっているお弁当をデジタルプリントした服を着て、レビューイベントに出席した。日本チームのメンバーと出会い、「日本にもこんなに素晴らしいアーティストがいるんだと思った。そういう人たちと作品をつくれたことが嬉しかった」と語ってくれた。

 ヴィクトリアズシークレットに選考基準を聞くと、「ユニークな才能と独特の視点」との答えが返ってきた。選ばれた誰もが、ヴィクトリアズシークレットからアプローチを受けるまで、選ばれたいブランドなどと思ったことはなかっただろう。人と違っていることを恐れず、媚びずに自己表現している女性たちにスポットライトが当たったことを嬉しく思う。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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