テキスタイルからライフスタイルブランドを目指す「スリールームズ」(杉本佳子)

2025/12/19 06:00 更新NEW!


スリールームズが扱う生地の一部

 スリールームズは、日本の生地をアメリカのアパレルメーカーに供給するためにブルックリン在住のフィッツジェラルド美都さんが2009年に立ちあげた会社だ。岡山のデニムを中心に、名古屋のウールや浜松の細番手コットンも扱う。最大の得意先はラルフローレンで、Jクルー、トッドスナイダー、バックメイソン、3.1フィリップリムとも取引がある。

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 フィッツジェラルドさんはヴァーモント州立大学卒業後、日本の商社やヨーロッパのテキスタイル会社で働き独立。独立時にサポートすると言ってくれた織屋さんが3軒あったことから、スリールームズを社名にしたという。

 2019年にジャパン社を設立したものの、日本では出荷業務担当者が1人いるだけで、あとはフィッツジェラルドさんが1人ですべて回している。ウエブサイトもないし、テキスタイルの合同展にも出展していない。

 それでもスリールームズとのダブルネームを商品につける著名ブランドがある。

 例えば、ニューエラとコラボしたベースボールキャップのシリーズ。ゴブラン織にビンテージのカムフラージュ柄をのせるなど、日本の技術にモダンな息吹を加えている。

スリールームズの生地が使われたニューエラのキャップ

 ニューエラはフィッツジェラルドさんにインタビューした動画をインスタグラムにのせ、それも非常に反響があったという。

 「スリールームズなんて誰も知らないのに、ニューエラから(インタビューをインスタグラムにのせることを)提案された。日本の生地を説明することにもっと力を入れないといけないと実感した」とフィッツジェラルドさん。

 トッドスナイダーとはダブルネームでバンダナを共作した。Jクルーとは150年以上の歴史を持つ浜松の工場で作られたシアーサッカーを使った商品で、織りネームにスリールームズの名前が加えられた。

 フィッツジェラルドさんが極力小さな織物工場と組み、尚且つ日本の匠の技が入った生地を今風に使うことに注力していることが、こうしたコラボにつながっている。

 そんなフィッツジェラルドさんの活動は今、テキスタイルに留まらない。モデルエージェンシー「AMCキャスティング」をやっている人とヘルムートラングのデザイナーをしていた人と組み、「AMCマーケット」というアパレルのブランドを立ち上げた。

 AMCキャスティングがリックオウエンスのショーのキャスティングをやっている関係で、10月にリックオウエンスのパリの自宅で、AMCマーケットのお披露目会を開催。フィッツジェラルドさんはAMCマーケットの生産を担当している。初シーズンは「It is what it is」(仕方ない、それが現実だの意)をマントラに、Tシャツやスウェットシャツをウエブサイトで販売し始めた。

AMCマーケットのTシャツ
AMCマーケットのスウェットシャツ

 さらに、日本の着物をユニークな方法で売っていきたいと考えている。母、祖母、叔母が着ていた上質な着物がたくさんあるそうで、そのうちの1枚をAMCマーケットのお披露目会に持参したらリック・オウエンスの妻にとても褒められたので進呈したとか。ブルックリン在住の陶芸家、竹田紫乃さんに帯からインスピレーションを得たぐい呑みをつくってもらい、日本酒の会社とタイアップして展示会をやれたらいいと模索中だ。

 実際、伏見の老舗酒蔵、山本本家と組んで「スリールームズ」の名前で日本酒をつくった。手で米を洗って作った最高級の純米大吟醸で、希望小売価格899ドル!ソーホーのメンズのセレクトショップ「ブルーイングリーン」のストアイベントで試飲したが、とても飲みやすく美味しいお酒だった。デニム中心のテキスタイル会社がつくった日本酒なので、ボトルもラベルもブルーで統一している。

スリールームズの日本酒を持つフィッツジェラルド美都さん

 LVMHはモエヘネシーを扱い、ファッション業界のパーティーではシャンパンがつきものであることから、「ファッションとお酒は切っても切れない関係にある」とみるフィッツジェラルドさん。

 スリールームズをテキスタイルに留まらず、日本の伝統技術の良さを伝えていくライフスタイルブランドにしたいと意気込んでいる。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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