「着られるアート」で社会貢献(杉本佳子)

2025/11/06 06:00 更新NEW!


 ニューヨークのショールーム、ザ・ニュースは障がいをもつアーティストを支援する非営利団体「クリエイティブ・グロース・アートセンター」(カリフォルニア州オークランド)とコラボした商品を長年つくってきているが、寄付集めのためのイベントも開催してきている。

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 2022年にクリエイティブ・グロースとそのアーティストたちを紹介する映画を上映するイベントを行い、2023年にはショールームでファッションショーを行った。 

 そして今年10月30日に、2回目のファッションショーをショールームで行った。ファッションショーの前には、ショーに出ない服や雑貨が展示販売される。100ドルのチケットを購入した参加者は、20ドルのチケットを購入した参加者より1時間早い5時から会場に入り、優先的に買い物できる。今回は約200人が来場したが、5時からの回も続々と人々が訪れ、すぐに売却済みとなった600ドルのラグもあった。

 ショーには38人がモデルとして無償で参加。ホスト委員会には30人が参加し、総勢約100人が運営に参加したという。

 過去にクリエイティブ・グロースから買ったと思われる個性的な服を着ている人たちが少なからず見かけられ、知り合い同士が多い感じで、会場内は常に笑顔が溢れる温かいコミュニティーの雰囲気に包まれていた。

 服はザ・ニュースの創業社長の石井ステラさんのブランド、「6397」の服をリメイクしたもので、ショーの後、ショーで見せたうちの3点がその場でオークションへ。男性が着たテーラーカラーのジャケットは、900ドルで落札された。

 その他の服も販売の対象となり、利益の100%がクリエイティブ・グロース・アートセンターに寄付される。

 石井さんは、「アートには“表現する力”だけでなく“癒す力”もあると強く信じています。それはアーティストたちだけでなく、私自身にとっても同じです。このような団体は、私たちの社会やコミュニティにとって非常に重要な存在であり、私は自分の立場でできる限りのサポートをしたいという強い思いがあります」と語る。石井さんはつい最近までクリエイティブ・グロース・アートセンターのディレクターを務めていたトム・ディ・マリアさんを通じて、精神的な障がいを持つ人々にとって、一般的なコミュニケーション手段が難しい場合でも、アートがその壁を越えて人と人をつなぐ力を持つことに気づかされたという。「それは人間の在り方について多くを教えてくれ、私は少しでも彼らの現実をより良く、少しでも生きやすくするために自分にできることをしたいと感じました。それが、私なりの小さな社会への貢献なのです」と石井さん。

 服はまず、着やすくてデザインや素材、色、柄が好まれることで価値が生まれる。「着られるアート」の位置付けのこれらの服は、元々は6397の服だったのだから、仕立てや縫製、カッティング、生地への信用は既に存在する。障がいをもつアーティストたちに良質なデッドストックをキャンバスに自由に表現してもらい、自らイニシアティブをとってコミュニティーをつくり、彼らをサポートする寄付金を集める、それはとても意義のある社会貢献だろう。ファッションにはこういう力もあると、改めて気付かされたイベントだった。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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