繊研新聞では4月に「記者に記者があえて聞く!」と題したインタビュー企画を掲載しました。今回はその第2弾として、専門性の高い素材の世界の〝そもそも〟に迫ります。合繊(ポリエステルやナイロン、アクリルなど)や天然繊維(綿、ウール、麻など)の分野をそれぞれ取材している記者2人に登場してもらい、その面白さや魅力をマニアックに語ってもらいました。
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中村恵生=合繊担当
三冨裕騎=天然繊維担当
石井久美子=レディス専門店担当
●雨の日にナイロンはどうなる?
石井 まずは2人が担当している合繊、天然繊維の魅力を教えて下さい。
中村 普段取材しているジャンルには思い入れがあるので、やっぱり合繊素材が好きだね。川上担当になる前はカジュアル専門店などを担当していたので、正直ポリエステルとナイロンの違いもそこまで分かっていなかったし、合繊=安物と思い込んでいた。でも、合繊のなかにも風合いが良い物はあるし、家庭洗濯のイージーケア性とか、吸汗速乾の機能性といった強みもある。
石井 最近はセレクトショップなどで、帝人フロンティアの「ソロテックス」を使ったメンズセットアップも多く流通していますね。
中村 昔はウールが当たり前だったスーツで合繊化が進んでいるのは時代の変化だね。僕も持っているよ。洗えるしシワになりにくいから扱いやすい。ソロテックスはPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)繊維というポリエステルの一種なんだけど、糸の構造を工夫することで、ポリウレタンを使っていないのにストレッチ性があって着心地が楽だし。今後、より高級感のある質感の合繊生地の開発が進めば、さらに広がるんじゃないかな。
あとは、小松マテーレのナイロン素材「コンブ」も好き。ナイロンって本来は柔らかくてシルキーなんだけど、コンブは繊維自体を改質していて、その名(昆布が由来)の通り固い。綿のキャンバスに近いかな。バッグでの採用が多くて、丈夫だけど軽いのが合繊ならでは。合繊の性質として、ポリエステルはそれ自体水を吸わない(吸水機能は技術的な工夫によるもの)のに対して、ナイロンは水を吸うから、雨の日にコンブのバッグを使うとちょっとくたっと柔らかくなるんだ。「ああ、ナイロンなんだなあ」って。
石井 それはだいぶマニアックな感覚ですね(笑)。

中村 あと、高級感のある質感の合繊でいうと、東レが19年に発表した「キナリ」。ポリエステルなのにシルクのような風合いのきれいな素材だよ。東レは昔から「シルック」シリーズでシルク調合繊を開発してきたけれど、キナリはそのトップ素材といえるね。

石井 三冨さんの好きな天然繊維は何ですか?
三冨 ウールは好きですね。加工の仕方によって、上質な光沢のあるスーツにもなればざっくりしたニットアイテムにもなる。しかも天然の機能素材。撥水(はっすい)、消臭、吸湿発熱など、合繊でできることは大体ウールでもできるから。アウトドアでウールの肌着が使われているのが良い例。学生服にもウールが使われているけど、毎日着ていても臭くならないし、何年も使うのにへたりにくかったでしょう?
石井 なるほど!
三冨 天然繊維担当としては綿についても語りたい。綿は綿で、肌着からトレンチコートまで用途が幅広い。綿ならではの肌触りはもちろん、吸湿発熱性なんかの機能もある。綿のなかでも長い繊維の超長綿は光沢感があって滑らか。大和紡績の高密度綿織物「ベンタイル」は水を通しにくい織りの技術が特徴で、コートやシューズ、バッグなどに使われています。

製品だと、つり編み機という昔の希少な機械で作ったつり裏毛のスウェットトップやパーカも好きです。素材自体は和歌山で作られているんだけど、和田メリヤスさんなどが有名。通常のスウェットよりも柔らかく仕上がります。
●自然界の物を同じ色に染める
石井 最近のマスク不足で改めて思ったんですが、糸から最終製品までの工程を考えたとき、日本国内でどの程度自給自足できるんでしょう。縫製品が輸入中心なことは知られていますが、現実問題として(海外にある日系工場含め)外国からの輸入がストップしてしまう事態というのはあり得るわけで。
中村 合繊の製造もメイド・イン・ジャパンの世界シェアは1%を切っている。糸ベースでも、世界的にみると日本の量的存在感はほとんどない。
三冨 綿花、羊毛などの原料も国内ではほとんどとれないんです。少なくとも本州にいる羊の毛は太いから衣料用に適さないし。北海道の気候だとまた違うかもしれないけれど。染料もあまり作っていないし、紡績工場もかなり減っています。
中村 日本は世界的に見ても技術力が高く、率先して新素材を開発してきたのは間違いない。北陸産地などの合繊のテキスタイル技術もそう。ナイロンの高密度織物とか、存在感をきっちり示している物はある。ただ、中国や台湾、韓国も追い上げているし、昔に比べて日本の新素材開発も減っているので、技術面でもうかうかはしていられないけれど…。
三冨 綿やウールを使って日本で作られる生地の強みはリピート性や品質の安定感だと思います。例えば綿花は植物だから、毎年同じ物が収穫できるわけじゃない。だけど例えばユニフォームは毎年きちんと同じ色で納める必要がある。コーポレートカラーを使ったユニフォームなら、入社年によって微妙に色が違うとまずいわけで。
(つづく/繊研新聞20年6月1日付)