和興 カットソー製造業の新たな可能性開く

2021/03/13 06:28 更新


 カットソーOEM(相手先ブランドによる生産)の和興が、アパレルプロデュースやDtoC(メーカー直販)で、存在感を発揮している。旗振り役は、4代目の國分博史専務。インテリア業界出身という異色の経歴を生かし、「第二創業的な感覚」(國分専務)で、新たな事業領域に挑戦している。

 和興は1929年創業。ニット産業発祥の街、東京都墨田区でカットソーの企画・縫製を営む。岩手県一関市にある自社工場を拠点に日本製を貫き、高付加価値品を多品種・小ロット・短納期で生産している。

非アパレルの受け皿に

 國分専務はインテリア業界で15年キャリアを積み、個人で家具デザインやコーディネート、輸入などを行ってきた。和興は妻の実家の家業で、6年前に入社。当時は廃業予定で、取引先はほぼゼロからのスタートとなったが、現在もOEM事業は継続し、昨今は新たなビジネスも花開き始めた。取引先の注文を待つ受け身の経営では「3年持たない」という危機感を背景に、下請け体質からの脱却を目指し、提案と発信に力を入れている。

國分専務

 活気づいているのが、異業種のアパレルプロデュースだ。例えば、鹿児島県阿久根市にあるカフェ・ショップ兼ホステルのイワシビルでは、店頭や工場スタッフのワークウェアを手掛けた。インテリアの完成予想図を見て、服のイメージや色なども提案。スタッフが着用するだけでなく、店頭でも販売している。

鹿児島県阿久根市のイワシビルでは内装の完成予想図を基にユニフォームをプロデュースした

 スタートアップとの取り組みも盛んだ。物が売れない時代だが、「市場の隙間を突くようなスタートアップブランド、個人が増えている」。インスタグラマーのアパレルプロデュースが好例だ。高い身長のために気に入った服が着られないと悩む人気インスタグラマーから、オリジナル商品を作ってフォロワーに提供したいという要望を受け、企画からサポートした。定期的に注文が入り、最近では自由が丘に店舗も開設。「コンセプトがしっかりしているものは売れる」実感を得た。

 スタートアップ企業や個人との商売は、小ロットのため敬遠されやすいが、國分専務は「売れる仕組みを一緒になって考えたい」という。スタートアップブランドは在庫を積みすぎて、資金繰りが立ちゆかなくなり、断念するケースが多い。同社は単価は上げるものの、できるだけ小ロットで引き受け、次の企画や完売した時のリピート生産がしやすくするなど、製造業の視点からより継続性の高い仕組みを作る。

 同社にとっては、価格や生地が決まっている従来のOEMに比べ、利益率が高まる利点がある。提案型のビジネスは、価格決定権が持てるからだ。その分、提案に向けて「何が売れているか、服に何が求められているか理解して仕事しないといけない」と話す。國分専務も、はやりの店や販売されている商品などの情報収集に余念がない。インスタグラムやピンタレストも見る。今注目しているのは、奇抜なデザインより、素材や心地良く過ごすための服で、「自分自身も追求したい」。インテリアの発想から、洋服ありきでなく、リビングやソファとなじみ、「心地よく、精神的も有意義になれる服」が理想だ。

メーカー機能を生かす

 理想を求めて行き着いたのが和紙100%の丸編みだった。地場の染色企業などと共同開発。調湿性のほか天然の抗菌・消臭作用があり、生分解性も特徴だ。これを使ったオリジナルブランド「和紙の服」も始動し、自ら消費者を開拓している。

 和紙の服がきっかけで、モバイル通信機器レンタルサービス大手のテレコムスクエアと「和紙×旅マスク」の協業にもつながった。旅行用のマスクというコンセプトに応え、同じ和紙100%で耳ひもだけ横編みにし、フライトなどで長時間つけても楽な仕様にした。マクアケで12月中旬まで募集し、応募購入金額は40万円と予定の2倍を超えた。第2弾として、機内で快適に過ごせるウェアを検討中だ。

 今後、スタートアップなどへのアパレル提案、和紙の服を核としたDtoCを、既存のOEM事業と並ぶ柱にしたい考えだ。とりわけ、スタートアップなどへのアパレル提案に成長戦略を描く。コンセプト作りからブランド運営を支えるファッションコンサルタントの可能性を探る。様々な企業が参入しているが、メーカーがやるメリットやユニークさで差別化できると見る。受け入れられれば、知名度が上がり、他の事業拡大にも貢献すると考える。

 これらの事業を効果的に発信するため、今春、ホームページを大幅刷新する。ECの機能も加える。

和紙糸を使ったカットソーは欧州でも好評だ

《チェックポイント》老舗の蓄積×若手のエネルギー

 産地企業に若者が増えつつある。以前は何年も雑用しかさせてもらえず、志半ばで挫折したという話もよく聞いたが、今は生き生きと働く姿が目立つ。和興も若手が元気な企業だ。小林真琴さんは入社3年目ながら、企画営業の仕事をメインに、大車輪の活躍を見せている。

 和紙の服は昨年4月、Tシャツを皮切りに始動するはずだったが、新型コロナウイルスの影響で頓挫。その際、同じ生地を使った布マスクをECで売ろうと持ちかけたのは、小林さんだった。DtoCの打ち出し方についても積極的に意見を出した。初のリリース制作も全面的に担い、「なぜ物作りの会社がマスクを作るのか」メッセージ性と客観性のバランスをとりながら、作り手の思いを伝えた。

 マスクはこれまでに2万4000枚が売れ、DtoCの成功体験として従業員に自信と喜びをもたらした。顧客データも約5000件集まり、マーケティングの基盤ができた。「老舗のネットワークやノウハウに若手の発想を生かす」経営が、難局を乗り切る原動力の一つになっている。

《記者メモ》ゆでガエル理論

 「異業種にいなければ、今考えていることは浮かばなかったし、3年のリミットも感じなかったかもしれない」と國分専務。

 強烈に記憶に残っているという「ゆでガエル理論」に照らして話してくれた。ゆでガエル理論は、「カエルをいきなり熱湯に入れると慌てて飛び出して逃げるが、水から入れて温度を上げていくと、カエルは温度変化に気づかず、ゆで上がって死んでしまう」という、経営や組織を語る際に使われるたとえ話。現状に安住していると変化に気づけず、危機を認識した時には手遅れになるという、ビジネスの教訓になっている。

 事業や従業員の意識に好影響を与えた和紙の服は、入社してすぐに構想したビジネスだった。アパレルへの飛び込み営業で値下げの話ばかりされ、「動き方を変えていくしかない」と覚悟したという。現状に安住せず、絶望せず、自ら需要を創造する前向きな姿勢が、ピンチをチャンスに変える。

(橋口侑佳)

(繊研新聞本紙21年1月20日付)

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