VR(仮想現実)では、現実ではできないVRならではの活動と、現実の業務のノウハウを応用できる活動がある。うまく組み合わせることで、新たなビジネスモデルが開ける。
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■売り場から街、建物も
バーチャルマーケット(Vケット)は、会場の作り込みが見どころの一つ。ブースの集まるエリアが様々なテーマで来場者を入り口から楽しませる。VRコマースでは、街や建物までも売り場の拡張として自由に設計できるのだ。
「VRで最高の顧客体験を提供するためには、3Dモデリング作業を含めて一気通貫で考えるべき」と話すのは、初出展した三越伊勢丹ホールディングスの仲田朝彦さん。仮想伊勢丹新宿本店ブースとバーチャル商品は、仲田さんらモデリング初心者の社員3人が、半年の技術習得を経て3DCGソフト「ブレンダー」を使い自作した。
出展内容の原案はSNSの隆盛した10年からあり、ファッションが「自己実現のツールとしてインターネット上でも便利なソリューション」になると考えていた。そのビジョンが「遠い先の未来でないことを社内に示したい」と仮想店舗を自作し、社内起業制度に採用された。
会期中は自宅からVR接客をした。「店舗や商品のモデリングを作成していくと、思い入れもできて、後の接客でも自信をもって伝えられる」と自作する利点を実感した。

■〝伝統〟が最先端へ
空間と商品のモデル、接客が揃えば、消費者はリアル商品もVRから購入する。仮想伊勢丹で出品したメンズ服ブランド「ミノトール」は、バーチャル商品に加えリアル商品も出し、好評だったという。VRユーザーに、百貨店ブランドの価格帯でリアルのファッション提案が受け入れられたのだ。ブースを訪れた来場者の年齢層は幅広く、普段から来店する顧客もいた。

仲田さんはブランドとの取り組みについて、「ビジネスモデルが完成していない分野なので、情熱のあるチャレンジングなブランドと組んだからこそ実現できた」と振り返る。
さらに、VRファッションに在庫リスクがなく収益性が高いことを生かし、小売りが専門学生や若手デザイナーの活動を支援する可能性を見据える。
仮想店舗の常設に向け、仲田さんの取り組みは続く。売り場作りやブランドとの関係作りなど伝統的な百貨店の仕事が、VRという最先端技術にも活躍の場を広げていく。

(繊研新聞本紙20年6月2日付)