VR(仮想現実)で、ファッションの新たな楽しみ方と購買への活用が盛り上がりつつある。ユーザーは、仮想空間で身にまとうアバターやアバター用の衣服データを買い、着せ替えを楽しむ。3D空間を用いて没入的な体験ができる特徴から、企業が商品の販促につなげる動きも始まった。
(小島稜子)
VR上でファッションと、商品を販促するコマースを一度に体験できるのが、展示即売イベント「バーチャルマーケット」(Vケット)だ。VRイベント企画などのHIKKY(東京)の主催で18年に始まり、今年4月29日~5月10日にはソーシャルVRアプリ「VRチャット」で第4回を開いた。過去最多のクリエイター1400組超、企業43社が出展した。来場者は5月6日時点でのべ50万人を突破、最終的に前回の71万人を上回ったと見られる。
■市場は確立、より自由に
Vケットでは、主に「バーチャルアイテム」と呼ばれる3DCG素材が出品される。その多くはアバターや衣服データだ。試着でき、外部サイトを通じて購入する。第2回からは、企業が参加しリアル商品が登場した。第3回で企業が急増し、ファッションや雑貨のリアルアイテムが存在感を示すようになったという。
HIKKYの舟越靖代表によれば、アバターを使ったバーチャルなファッションの市場は既に確立されている。「アメーバピグ」や「どうぶつの森」シリーズなどのゲームで、アバターを着せ替え交流を交えて遊ぶ文化が定着したからだ。VRファッションはそこから自由度やグラフィックを高めたものと捉える。
VRファッション参入のカギは、VRの特性を理解しながら自社の強みを生かすことだろう。2度目の出展となるウィゴーはHIKKYと協業し、リアル商品を基にしたアバター用のスタイリング一式のデータを販売した。1200円とデータとしても安く、VRユーザーに多い若い世代が買いやすい。Vケットを企画するクリエイター、動く城のフィオさんによれば、「キャラクター型のアバターを用いる人々の中では、現実のファッションのように既に着回しなどの複雑なコーディネートを楽しんでいる人もいる」という。少数だが「自身の肉体を3Dスキャンしてアバターとして使う『リアルアバター』」のVRユーザーもいる。アパレルの知見が生きるリアルファッションテイストのバーチャルアイテムの需要はあるようだ。
■リアル店のような接客
VRでは、様々な物理的な制約から解放される。ウィゴーの園田恭輔社長は、バーチャル商品の利点に「データなので欠品がない」ことを挙げた。人的サービスにもバーチャルの恩恵がある。今展は、リアル店舗が閉鎖する一方、VRでのリモート接客が実現した。VRチャットでは、その場で鏡を表示したり、商品をアバターの前でかざしたりと試着を助ける機能がある。バーチャル店舗でリアルのような接客ができるのだ。
VR接客の結果、新規顧客の獲得に加え、来場者がその場で友人のアバターを店舗へ招くという即座の来店促進が起こった。さらに、ブースでのコミュニケーションを通じ、スタッフと来場者との協力関係が生まれたという。看板を持っての呼び込みや、海外からの来場者の通訳などを、居合わせた来場者が自ら引き受けた。
呼び込みは、特徴的な体験の一つとして楽しまれている。VRチャットはとりわけ娯楽的なSNSであり、さらには日本語非対応ゆえに日本人ユーザーが互助的になることも、その背景にあると考えられる。
園田社長は、VRコマースを「新規チャネルを増やす認識」とし、顧客や商品が「リアルとつながっている必要はない。VRでしかできないことを追求してよい」とVRファッションの独自性を評価する。VRは、リアルの代替や副次的な存在に留まらず、独自の顧客と新たな関係性を構築できる可能性を持っている。