【VR×ファッションの先①】現実と仮想、双方から迫る ≪世界の受容≫アバターが消費行動まで
VR(仮想現実)への関心が高まっている。バーチャルユーチューバー(Vチューバー)やバーチャルインフルエンサーなども近年勢いを増し、CMや店頭広告など様々な場所で活躍し始めた。消費者も自分の分身である〝アバター〟を所持し、VR空間で自己表現し、消費行動に至っている。
今後、VR空間で時間を消費する消費者はさらに増えるだろう。仮想世界でTPOに合わせた服の需要が浸透した時、ファッションビジネスでも現実とバーチャルの両面からのアプローチが重要になりそうだ。
(海藤新大、小島稜子)
■より身近な世界に
VRの魅力は何といっても本当にその世界に入り込んだような感覚を味わえる没入感だ。まだ普及段階ではあるが、17年にVR空間でコミュニケーションができるアプリ「VRチャット」が登場したことでより身近な世界になった。18年2月時点でユーザー数が300万人を超え、アバターを使った自己表現やコミュニケーションが若い世代に急速に広がっている。来年、フェイスブックが新たなソーシャルVRプラットフォーム「フェイスブック・ホライズン」のサービス開始を予定するなど、VRが体験できる世界はさらに広がる。
国内ではVRチャットの空間を使った展示即売会「バーチャルマーケット」が18年に初めて開かれた。今年9月の「バーチャルマーケット3」では協賛企業が増え、ビジネスでも盛り上がりを見せている。
VR空間で使える衣装やアクセサリー、アバターの3Dモデルなどを購入できるイベントで、実際に商品を見て手に取り、試着も購入も可能だ。仮想の空間が用意されていることで、単に買うだけでなく様々なアバターが集まり、友達や見知らぬ人、販売員などとコミュニケーションをとり、写真を撮って共有し合える。まさに現実の世界で街に買い物に行くことと変わらない体験がVR上で行われている。
ファッション分野でも少しずつバーチャル世界の需要に目が向けられている。ウィゴーは、VRコンテンツなどを制作しているHIKKYと協業した新しいブランド「ベイダーベイダー」を立ち上げ、バーチャルマーケット3で販売した。渋谷の街をモチーフにしたVR空間「ネオ渋谷・ナイト」にある、渋谷109を模した建物に店舗を再現し、出店した。
先進的な取り組みに見えるが、園田恭輔ウィゴー社長は「やっていることは現実世界の協業企画と変わらない」と話す。「優れたクリエイター集団としてのHIKKYさんとの協業では、一番需要があって適した場所がVR空間だったので、そこに商品を提供しただけ」という。
■距離の概念超える
しかし、このイベントにも新しい試みはある。シームレスに現実とバーチャルをつないだ点だ。現実のウィゴー渋谷109店に設置したディスプレーやタブレットから、ヘッドマウントディスプレーを使わずにVR空間の中のスタッフとコミュニケーションがとれ、服を試着できる。反対に、VR空間からは現実の店舗にいる人のアバターが見える。VRを介して、距離の概念を超え、どんな場所からでも渋谷のウィゴーに足を運べ、スタッフと触れ合うことができる。
ベイダーベイダーにも現実と仮想世界で楽しめる工夫がされている。扱う商品はキャップ(2599円)やTシャツ(同)など一般的だが、商品それぞれに専用のコードをつけ、それを読み込めば、VR空間にいる自分のアバターに全く同じ服を着せられる。現実と仮想両方でブランドの世界が味わえるわけだ。こうした体験はECとは違った新たな消費の形を感じさせる。客の反応も良く、実店舗では在庫が足りなくなるほど。用意していた数量は全て売り切ったという。
消費の場は、百貨店やショッピングセンターなどリアルの場から、ECサイトというインターネット上の仮想の場にまで広がっている。VRによって、今度は仮想空間でも現実と変わらない消費行動が、もう一つの世界として並走する可能性が見えてきた。
現実と仮想世界を区別せず、相互乗り入れする視点が、これからのファッションビジネスに欠かせなくなってくる。
(繊研新聞本紙19年10月23日付)