《視点》人を魅了するもの

2022/07/14 06:23 更新


 少し前に、横浜市青葉台寺家町にあるギャラリーを取材した。青葉台駅から距離があり、行きの道はややおっくう。だが、穏やかな田園風景のなかで過ごす時間は都会のせわしなさをたちまち忘れさせ、心を豊かにしてくれる。ギャラリーはカフェを併設し、アパレルや雑貨も販売している。オーナーの話は、商売の原点に通じるものだったのではないかと思う。端的に言うなら、自分たちが自信を持てる商品しか売らないとの心意気だ。自分たちが普段愛用しているものや憧れるものだけを揃える。

 しかし、決して押しつけがましくはなく、商品の良さが素直に響いてくるのが最も本質的な点。ここでそう思ったのは、感動の瞬間を体験して欲しいとの思いが細部まで行き届いているからだ。

 例えば、カフェで提供するメニュー。展示されている絵画や窓からのぞく柿の木で彩られた空間に合う料理を、チーフシェフが日々試行錯誤している。それゆえ、「他の場所で食べたら違う味がすると思う」という。この場所が五感に訴える味わいは、他では再現できないのだ。料理には無農薬で自家栽培した食材を使うのもこだわりである。

 取材ではオーナーがこんな言葉を教えてくれた。「安いものには訳がある。高いものには物語がある」。誇りは自然と商品や店を輝かせ、人を魅了するのかもしれない。

(麻)



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