先日、ある織物産地企業を取材したとき、見本反だけ求められて、量産は中国など海外に行ってしまうケースがあるという話を聞いた。その企業は上質な麻織物を主力としており、「仕立て映えの良さは全然違うのに、中国産に比べて1㍍あたり50~100円高いだけで中国産が選ばれてしまう」という。
アパレルからすれば、消費者がそこまでの品質を求めていないと判断したのかもしれないし、こうした動きは一概に間違っているとは言えない。今や縫製はほとんど海外。生地の運送費、納期なども含めれば海外調達のメリットが大きいというのは合理的な判断だろう。ただ、ファッション衣料の場合は感性という、数字で判断できない要素が含まれる。もしかしたら国産生地を選んでいた方が少々高くても売れたかもしれないし、やはり売れなかったかもしれない。金額と品質のバランスはあくまで結果論にすぎないが、そこに目利きの難しさ、面白さがあるのだろう。
この間の低価格志向は、消費者がそれを求めたことに加え、アパレル、小売りといった作り手が自分の目利きに自信がないために金額という絶対的なものをメインの指標にしてしまったことの表れのようにも思える。値上げが叫ばれる昨今、金額の高低だけでない作り手の目利きがより重要になってくるかもしれない。
(騎)