《視点》特別な場所

2020/09/02 06:23 更新


 「若い消費者の百貨店離れ」とよく耳にするが、20代半ばの私にとって百貨店は身近な存在だ。「身近な」というよりも、これまで幾度とお世話になり、思い出の詰まった場所という感じだ。地元の駅前には百貨店があるが、郊外店や地方百貨店閉鎖の波に押され、その店も来年で歴史に幕を下ろす。

 昔から百貨店が好きだった。家族と行った子供服売り場や呉服屋、屋上の広場…懐かしい記憶がそこかしこに残る。販売員は子供に対しても誠実に接してくれ、それが幼心にうれしかったような気がする。いつ行っても程よい緊張感があって、それが心地良かったりもした。

 学生時代には愛着心から5年近くデパ地下でアルバイトもした。一人ひとりに丁寧に向き合いながらニーズを引き出し、喜んでもらえる仕事は本当に楽しかった。常連客が多い店だったが、中には私を指名して総菜を買ってくれたお客様もいた。

 取材で百貨店に行くと「人」「つながり」という言葉が出てくる。人との交流が減った今はなおさら、その価値に目が向けられる。時代変化に柔軟に対応できなければそのうち淘汰(とうた)されていくのは自然なことだが、どこかに寂しさが募る。

(麻)



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