昨年から合繊メーカーの工場で火災が続いている。いずれのケースも死者や大きなけが人が出なかったのが不幸中の幸いだが、改めて製造現場は火と隣り合わせということを思い知らされる。
過去を振り返れば、合繊、紡績、織布、染色などの繊維工場、あるいは物流倉庫では、たびたび火災が発生してきた。数年前だが、大阪のオフィス街で、在庫をストックしていた生地問屋から火が出てビル火災に至った例もある。
大阪商人を描いた山崎豊子氏の小説『暖簾(のれん)』は、火災後の修羅場について次のように描写している――「火元の主人は紋付羽織に袴(はかま)をつけ、足元は裸足のままで、『火出ししておわびのしようもござりまへん、どうぞこの通りでー』類焼した隣近所へ土下座に廻(まわ)った。これが船場の火出し人の作法であった」。
地域社会は企業にとって重要なステークホルダーの一つ。たとえ延焼しなかったとしても、一度火災を起こせば、その企業に対する隣近所の目も厳しくなる。〝対岸の火事〟と捉えず、どの職場にもある火災のリスクを洗い出す機会にしたい。
(恵)