《視点》市今昔

2018/07/31 06:21 更新


 ワクワクする買い物の最初の記憶は、市(いち)だったかもしれない。母の自転車の後カゴに乗せられて買い物について行った頃、楽しみだったのが4や9のつく日に広場や路地に立つ青空市だった。鮮魚の生臭さや野菜の土の匂いがする出店が並ぶなか、駄菓子屋のおまけのようなおもちゃやアクセサリーをシートの上に山盛りにした店で、好きなものをあさっていた記憶がある。

 都市部では根絶したかに思えた販売形態だが、今また、赤坂マルシェに代官山蚤(のみ)の市といった、市と名のつく野外の催しが増え、人気を集めている。出店者は、クラフト作家や、ビンテージのアクセサリーなどを扱うディーラーが多く、世代は30~40歳前後と若い。会期中にしか出会えない限定感や、作り手とじかにおしゃべりできるライブ感、どこか未完成で、ノスタルジックな市の雰囲気が、買い物の気持ちをそそるに違いない。

 各出店者とも、SNSを通じて普段の活動やプロフィールを発信している点は、現代ならでは。個人的には、どこから来て、どこへ去って行くのか分からなかった、少し謎めいた昔の市のムードも好きだったな、と懐かしく思う。

(維)



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