《米国のデザイナービジネスはどこへ①》岐路に立つデザイナー

2020/08/08 06:29 更新


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 米国のデザイナービジネスが大きく変わろうとしている。著名な高級店の消滅、コロナ禍での実店舗の売り上げ減から、新しい売り方への模索が始まった。卸売りという販路が減少してECや直営店が主軸となる中で、セールスエージェントの仕事の仕方も変わらざるを得ない。米国のデザイナービジネスはどこへ向かうのか。関係者の声から探った。

(杉本佳子=ニューヨーク通信員)

 デザイナーブランドにとって、著名な高級店に入ることは一つの励みであり、ビジネスを支えてきた部分だった。しかし、米国ではバーニーズ、オープニングセレモニー、ジェフリーが消滅し、傘下にバーグドルフ・グッドマンを持つニーマン・マーカスはチャプターイレブン(米連邦破産法11条、日本の民事再生法に相当)中だ。サクスフィフスアベニュー、ノードストローム、一部の高級セレクトショップなど残る選択肢は非常に限られている。

 そこへきて、コロナによる臨時休業中、実店舗の売り上げはゼロになった。オンライン販売を続けても、実店舗の売り上げ消失をカバーするには至らない。実店舗が再開されても、以前と同様の売り上げは当面期待できない。バイヤーの出張再開も不透明だ。ブランドは、ネットを通じたDtoC(メーカー直販)を強化せざるを得ないかもしれない。

ロックダウンされたショップ(5番街の「コーチ」)

 しかしネットを通じたDtoCでは、これまで卸売りで得られてきたメリットは得られない。それは、「著名店に入ることで一定の信頼を得られる」「店から先物のオーダーが入ることで先のシーズンに何が売れそうか目途がたつ」「資金的な目途がたつ」「無名のブランドでも人目に触れる可能性がある」といったものだ。

 一方、卸売りで成り立ってきたショールームや合同展はどうなっていくのか。バーチャルショールームのジョアが急速に伸びている。競合するニューオーダーもサクスフィフスアベニューと契約し、シェアを拡大中だ。バーチャルショールームは一つの選択肢だが、それで解決できないこともある。まずは、コロナが卸売りに与えた影響の実態を聞いた。

ロックダウンされたショップ(ソーホーの「マイケル・コース」)

 3月半ば、米国のほとんどの小売店は店頭に大量の春物商品を残したまま、臨時休業に入った。時を経ずして、バングラデシュの労働組合であるバングラデシュ・センター・フォー・ウォーカー・ソリダリティーの発起人兼エグゼクティブディレクターのカルポナ・アクター氏が、「米国と欧州の多くの小売店及びブランドからバングラデシュの工場が受けたキャンセルまたは生産延期は、30億米ドル相当に及んだ」と発言し、欧米の多くのメディアが取り上げて反響を呼んだ。

ロックダウンされたショップ(ソーホーの「アレキサンダー・ワン」)

 その後、H&M、インディテックス、ターゲット、マークス&スペンサーなど一部の大手小売店チェーンが仕掛かり中だった分については支払うことに合意したと伝えられている。先日はある大手ブランドのCEO(最高経営責任者)が、「生産中だったものについては支払った」とウェビナーで発言したが、チャット欄に「払ってない」と書き込まれたケースもあった。いずれにしても、払う対応ができた企業はごく一部の大手ということだろう。

 では、中小の店やブランドの場合はどうだったのか。春物の在庫を大量に抱えた小売店にしてみたら、発注済の商品であってもキャンセルできるものならしたいと考えたに違いない。ブランドにとっては、引き取ってもらえず支払いもなかったら死活問題だ。実際、ニューヨーク・コレクションで毎シーズンショーをしてきた「シース・マルジャン」が最近、廃業した。今後も廃業するブランドが出てくることが予想される。

 ニューヨークのヒルダンは、450以上のブランドに融資と投資をしている。その多くは、コンテンポラリーからラグジュアリーまでのアパレルを中心としたブランドだ。ゲイリー・ワスナーCEOによると、3月15日までに発送されていなかった春物はすべてキャンセルされ、夏物もほとんどキャンセルされたという。

ヒルダンのワスナーCEO

 プレフォールと秋物に関しては、店を閉めた当初は多くの小売店が全てをキャンセルするか、またはオーダーを書き換えた。書き換えた店は、30~50%減らしたという。その後、秋物のオーダーをまた元に戻したりまた減らしたりするバイヤーもいて、状況は不安定だ。有効になっているプレフォールと秋物は通常より遅い出荷となり、ワスナーCEOは「これは、この危機の中で生まれた非常に良いことだ。バイ・ナウ・ウェア・ナウ(今買って今着る)が、やっと小売店で実現される」と前向きに評価している。

 ただ多くの小売店が、既に受け取っていて支払いがまだだった春物までも返品しようとしたという。それらの春物については、最終的には10~30%値下げし、店とブランドが痛み分けする形で落ち着いたそうだ。

 一方、アクセサリーと靴をメインに扱うショールーム、グレッグミルズの水野美咲セールスマネジャーは、「春物の支払いが済んでいないところから、30%の割引と支払い引き延ばしの連絡がきた。米国では、プレフォールを夏前に投下する小売店が多く、プレフォールの出荷は4月から始まるので、ほとんどのオーダーがもう出来上がっていて梱包(こんぽう)している段階だった。そのオーダーをキャンセルまたは数量を減らしたいという連絡が多かった。サプライヤーや素材メーカーにすでに支払っているブランドも多かったので、キャッシュフローが乱れることと、そのせいで自分たちへのブランドからのコミッション支払いが遅れるのではと危惧(きぐ)している」と語る。春物は、6月末時点でも依然未払いのままという。

グレッグミルズの水野セールスマネジャー

 ワスナーCEOは、「不可抗力が小売店に、春夏物とプレフォールの大半の発注契約を破棄する権利を与えた」と説明する。水野氏も、「バイヤーの方が圧倒的に立場が強いというのと、こちらも無理に押し通して今後の買い付けに影響が出るのも困るので、バランスが難しい」と話す。結局はブランド、ひいては工場が苦境に立たされる力関係の構図が存在する。ちなみにオーダーキャンセル、変更、支払い期限の延長をリクエストしてくるのは大手ばかりで、小さい専門店はあまりそういう連絡をしてこなかったという。

 ショールーム、ザ・ニュースの石井ステラ社長は、「チームはキャンセルと支払いなしにどう対処するか力を尽くしているけれど、私たちもうちで扱うブランドも確実に影響を受けている。『9.11』よりずっと深刻な状況だけれども、あの時みんなでどんな風にはいずり回って生き残ったかを思い出す」と語る。ブランドは国や州からの給付金を活用したり、スモールビジネスアソシエーションでローンを組んだりしてしのいでいるそうだが、石井社長は「最も怖いのは、店が再開して店が先物のオーダーをしやすい状況になるまで、影響の全体像がみえないこと」と、依然不透明な状況に不安を抱く。

ザ・ニュースの石井社長

(繊研新聞本紙20年7月2日付)

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