折り紙のような独特のフォルムが目を引くウクライナ発のマスク「ワウマスク」。耳ゴムのない装着方式で、快適な着用感やデザイン性が特徴だ。ウクライナでの量産は目前だったが、ロシアによる軍事侵攻で工場が被災し白紙に。開発した22歳のニキータ・ショロムさんは戦火を逃れ4月に来日、日本での事業化に向けたパートナー企業を探している。
(三冨裕騎)
ワウマスクは、ネジやバネを使わずに素材の構造そのもので形を変える「コンプライアントメカニズム」を応用したもの。ショロムさんが不織布を折り曲げながら最適な構造を探り、プロトタイプを開発した。
蛇腹をヒントに
マスク中央に挿入したワイヤと内側のシリコーンで主に鼻と頬骨、顔の横で押さえ、顔にフィットし、素材と肌との接触が少ない。化粧汚れを気にする女性にも最適だ。耳に掛けるタイプではないため、眼鏡や帽子をつけたままでも装着可能。蛇腹状に折り畳めるため、マスク表面が外に触れず清潔に持ち歩ける。
日本や米国、EU(欧州連合)、ウクライナ、中国、ロシアで特許を取得済みで、香港やシンガポール、マレーシア、カナダでも申請中だ。プロトタイプは2層のスパンボンド不織布を採用したが、3層や布など他の素材でも生産できる。「パートナー企業にはEUにおいてある機械とエンジニアやノウハウを提供できる」として「市場に合わせたサイズや形なども今後詰めていきたい」と話す。
ショロムさんがワウマスクを開発したのは、コロナ禍に入り、定量分析手法などを学んでいた留学先の米国からウクライナに戻った後だ。警察が使う蛇腹で広げる携帯式の盾を見た時にアイデアを思い付いたという。
約2週間で試作品を作り、ウクライナ国内のスポンサーもすぐに見つかった。スパンボンドを折り紙のように畳む技術が難しく、量産機の開発などに2年かかったが、ようやく生産設備も整え、大口の販売契約が進んでいた。しかし、契約を結ぶ1週間前に、ロシアによる軍事侵攻が始まった。
祖国に恩返ししたい
ショロムさんの故郷で、マスク工場もあるチェルニヒウはウクライナ・ロシア国境から約50キロ。マスク生産に重要な2台の設備はEUに避難させたが、爆弾で工場は壊滅。街は戦火に見舞われ、目の前で人が死んでいく様を目の当たりにした。2週間の地下生活も強いられた。
その後、留学時代の日本の友人から心配する連絡があり、来日を決断した。「自分が持っているノウハウ、知識を生かしてウクライナに恩返しをしたい」として、売り上げの一部はウクライナへの寄付も考えている。現在は大阪の豊中市に住居を構え、「ワウマスクがマスク業界のゲームチェンジャーになれば」と事業化に向け奔走している。