「ベイビー、ザ・スター・シャインブライト」。盛りを過ぎた頭が記憶するには長過ぎるロリータブランド名だった。そしてこの略してBSSBがパリ通信員としてのロリータ歴(「着用」ではなく仕事として)のはじまりだった。
ルノワール風お茶会画
パリモード界で活躍していたカメラマンの澤田貴彦氏が突然転身し、バスティーユにBSSBと姉妹ブランドのアリス&パイレーツのブティックを開いたのが9年前。ここからフランス初のお茶会の歴史が始まった。
姫たちの時間
☆「お茶会物語」を復習しよう!
■浪花節だよお茶会は
これまで何度か解散の危機を乗り越えてきたお茶会。
昨年、ロリータたちが「お茶会の父」澤田氏のためにマドレーヌ広場のフォーションを貸切にして開いた謝恩会は、同高級食品店の初の日曜営業となり、長い歴史に革命を起こした(日曜労働はいまだ大論議となる国フランス)。
さて今年2月末に予定されていたお茶会、今度は昨年11月テロで中止の危機に陥った。その筋のスターでゲストに決定していたアキラさんがテロを理由に渡仏を拒否。ところが中止決定直前に、お茶会の父澤田のもとにまたしても何かが起こった!
BSSBバステューユ店にある日、フツーの格好をした青年が来店した。
「僕のガールフレンドの夢は、お茶会でプロポーズされること。僕はその夢を実現させたいのです」と、その青年は澤田氏に告白した。
そして、「僕にアリス&パイレーツの服を選んでください。彼女に合うスタイリングでプロポーズしたいんです」と澤田氏にスタイリストを依頼。泣けちゃうね。澤田氏はこの青年のためにお茶会開催を決心した。
■ロリータ劇場
今年のお茶会の会場は、2度目となるオペラ・グランドホテルのサロン。サービス責任者クロードさん(以下執事と呼ぶ)、大勢のスタッフたちは「キャッ、ロリータさまたちが戻ってきた」とはしゃぐように喜ぶ。
でもね、「ロリータさま」と言っても、みなさん平均年齢上がったわー(筆者を棚に上げて)。笑うとカワイイ小ジワ浮かぶ。「桜過ぎかすかな若葉小じわかな」と何となく春の一句。
マリー親子。ルーカス・クラナッハはこんなベイビーを描いていたような
初回お茶会でクレープ頬張っていたマリーちゃんは、BSSBのぬいぐるみの「うさくみゃ(ウサギとクマ)」じゃなくて、長男のヴィルジルくん5か月を片手に「子連れロリータ」になっていた。「これも人生よ」_ マリーのつぶやき。
このマリーに続け。
バステューユ店を訪れた青年が、お茶会出席ロリータにプロポーズする日が来た。気の利く澤田氏はお茶会恒例の福引きに仕掛けをした。プロポーズされるロリータが、「地下1階にプレゼントがある」というクジを引く。
そのロリータが指定された場所へ行くと、「なんでアンタこんなところにいるや?」と青年が待っている。あとは想像通り、プロポーズが決行される。
地下で人生劇場が展開されている間、サロンでは花火とともに豪華絢爛ピエスモンテ(この場合デコレーションケーキと訳す)がド派手に登場! プロポーズから一気に結婚式なのか?「こういう時代だ、ショーで見た服の即販売は避けられないのか」と勝手に思考を巡らせていたら…
このウェディングケーキのような代物は、澤田氏が自腹を切ったロリータさんたちへのプレゼントだった♡ しっかりした生地と上等なクリームのケーキで、「マジに上手く切れないよ」と執事が呟く。
執事、ケーキ、花火
バーン
ケーキパパラッチ
ケーキの供給を待つロリータたちの間に、将来新郎新婦となってほしい件のふたりが現れた。女性はレティシアさん、某メゾンのマーケティングアシスタント。バステューユの男性はセバスチャンさん、博士号を持つ有望なエンジニア。交際歴9年。
プロポーズ直後 緊張しています
おふたりとも、お茶会でプロポーズの夢が実現し、もう目も当てられないほど幸せに緊張しまくり。おめでとうございます!
集合写真
■そしてお茶会は続く
さて来年10周年を迎えるお茶会。
ロリータさんたちの期待は高まるばかり。今年会場となったグランドホテルはすでに、「来年もウチで」と澤田氏に交渉中。執事クロードは「次回はこちらでいかがでしょう?」とアテネの円形劇場のような大サロンを提案し、彼個人の携帯電話番号まで澤田氏に渡したそうだ。
BSSBのお茶会はちょっとロマンチックな灯籠絵巻のように続く。
来年はここで
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。