美革命のプチヴォワヤージュ(松井孝予)

2018/07/04 13:30 更新


美革命のプチヴォワヤージュ

絵画のレヴォリューションを追って パリからジヴェルニーへ


オルセー美術館 マネの『草上の昼食』

美革命の幕開け

東京都美術館で開催中の「プーシキン美術館展 _ 旅するフランス風景画」。あのクロード・モネの『草上の昼食』(1866年)の初来日が話題になっていますね。

プーシキンコレクションではないので上野の展覧会の仲間に入れないのは当然なのですが、オルセー美術館蔵のエドゥアール・マネの『草上の昼食』(1863年)、生きているうちに絶対見るべき1枚です。

今日に至るまで、美の革命の象徴とされているこの絵。

ここに描かれているピクニック3人組のうち、ふたりのムッシューはコスチューム着用しているのにマドモワゼル、マネのモデルとして知られ、のちに彼女自身が画家となったヴィクトリーヌ・ムーランは裸体ですもん、当時の美意識を壊しちゃってます。

絵画の中で、神話とか宗教とかに因んだ架空の裸体ばかり見せられてきた19世紀の人々にとって、日常的な風景の中に実在するモデルの裸体が描かれていたら、それは冒涜、許されない現実です。

「今、私脱いじゃった」と証拠付けるように、ヴィクトリーヌが脱いだお洋服の上はピクニックのカゴの敷物のように描かれているし。

当時の政府が絡んでいたアカデミックな美術界も社会も、マネの提案する「美」のバージョンアップについていけず、この絵はスキャンダルとなり、サロン(官展)で落選、そのまた落選作品を集めた「落選展」でも落選。

しかしマネのこの絵によって美革命は幕開けし、偉大な画家たちが数々のバージョンに挑戦。モネだけでなくセザンヌやピカソもそれぞれの『草上の昼食』を描いています。

実はマネはこのピクニック3人組の絵に『水浴』という題を付けたのですが、モネがのちに『草上の昼食』を発表すると、『水浴』から『草上の昼食』に改題したのです。後陣の絵のタイトルをかっさらってしまうことで、自分の絵の存在を際立たせるとは、マネさん、マーケティングにも長けてますね〜。


日本ってカッコいい!を描きたかった「ジャポニスム/印象派」展

ジヴェルニー印象派美術館

Japonismes / Impressionnismes Musée des impressionnismes  Giverny

「1870年代から20世紀初頭にかけ、印象派、そしてポスト印象派に絶大な影響を与えたジャポニスム」なんてことを今さら書いてどうなるの。過去にどれだけこのテーマが取り上げられてきたことか。と、鑑賞前からすでに印象派でお腹一杯の心持ちだったのですが。

パリ・サンラザール駅から汽車に乗りノルマンディーのジヴェルニーへ。

ジヴェルニー印象派美術館で7月15日まで開催の「ジャポニスム/印象派」は、印象派とポスト印象派の画家たちが、美の概念を変えようと一生懸命だったということを教えてくれるガッツ溢れる展覧会。

浮世絵や日本の伝統が西洋絵画を変えた、その原点にすんなり入れます。結構知っていそうで知っていないことばかり。勉強させられます。

同館のディレクターで、この展覧会のチーフキュレーターを務めたマリナ・フェレッティ・ブキヨン氏は、ジャポニスムが主題(日常的な場面)、色彩、絵の構成を変えた、と指摘します。

これを頭に入れながら、日本絵画を背景に侍のようなポーズを取るマネの『エミール・ゾラの肖像』(1968年)、北斎の波を手本にしたスーラの『グランカンのオック岬』(1885年)、日本のオブジェのある日常を題材にしたポール・シャニックの『髪を結う女』(1892年)、モネの『睡蓮の池、緑のハーモニー』(1899年)、ボナールの屏風、ドガやゴーギャンの扇子、ゴッホ『イタリア女』などの作品から鑑賞してゆくと、彼らが日本のカッコよさに憧れ、それをどうやって新しい美にしたかったかという挑戦や苦悩が滲み出てくるのをジワジワと感じてしまいます。

『エミール・ゾラの肖像』 ⒸRMR-Grand Palais (Musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski
ボナールの屏風 La Promenade des nourrices, fise de fiacres ⒸParis, galerie Berès
スーラがインスピレーションを受けた、モネのコレクションの北斎の浮世絵 ⒸGiverny, Fondation Claude Monet
『グランカンのオック岬』Londres,Tate, purchased 1952, N06067

モネなんかジヴェルニーの自宅の庭の池に日本から輸入した睡蓮を浮かべ太鼓橋を架けて、絵を描いてたし。

浮世絵のコレクションも半端じゃない。日本人としては日本の美、伝統、ライフスタイルの素晴らしさをも教えてもらえる企画展です。


モネの家 La Maison de Monet

印象派美術館でモネの睡蓮を見たら、同館から歩いてすぐ、クロード・モネ財団が運営する「モネの家」へ。モネが1883〜1926年まで暮らしていた家です。

ここに造られた「水の庭」には、太鼓橋が掛けれた池に睡蓮が咲き乱れ、まさに絵の中にいる美しさ。

モネの家 水の庭
モネの家 水の庭

オランジュリー美術館『アメリカの抽象絵画と晩年のモネ』

Nymphéas. L’abstraction américaine et le dernier Monet

ツーリストでいっぱいのジヴェルニーに行くチャンスがなくても、パリにオランジュリーあり。ここでは8月20日まで、1920年没のモネが、50年代のアメリカ抽象美術に与えた美の目覚を探る『アメリカの抽象絵画と晩年のモネ』展が開催されています。

鑑賞後は、ここのブティックでライフスタイルショッピングも楽しみましょう。

この展覧会に合わせて企画されたコラボレーションミュージアムグッズがステキです。1898年創業パリのお茶メゾン George Cannon が緑茶をベースに香りをブレンド、モネにオマージュを捧げた「水の庭 / JARDIN D’EAU 」(16ユーロ)。

世界的フラワーアーティストで東京、大阪にもブティックを構えるクリスチャン・トルチュの「睡蓮」のルームフレグランスとポプリに、植物を形取ったテーブルウエア。食器に香りに「お家でモネ」、インスタ作品の格好のオブジェになりそうな…

クリスチャン・トルチュのテーブルウェア
クリスチャン・トルチュのテーブルウェア

【インフォメーション】http://www.musee-orangerie.fr/fr



松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



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