ボンジュール!パリ通信員の松井孝予です。
9月です。会社、学校、文化プログラム、すべてがスタートする9月ですが。ここでわざわざ書く必要もないですよね、何をするにもすべてがコンプリケ(複雑)。
シーズン早々、さまざまなイベントがドタキャンの一途。
今回は新型コロナウイルスの呪縛を逃れ、感染防止対策をクリアに越えて、フィジカル開催されたパリ・デザインウィークの話題です。
パリ・デザインウィーク!9月3〜12日
「人間であること、それは文化を身に付けることだ」フランスの社会学者、ピエール・ブルデュー / Pierre Bourdieu (1930ー2002)
「一言で言う。人生、即、芸術」岡本太郎(1911ー1996)
都市封鎖体験後、この偉人たちが残してくれた言葉が、脳に滲みてきます。
本物のアート、デザイン、カルチャーを見たい!
そんなヒューマンな本能を受け入れてくれたデザインウィーク。
衛生基準を守りながら、大成功を収めました。
《補足》パリ・デザインウィークって?
ご存知の方も多いと思いますが、パリにはファッションウィーク(日本で言うパリコレ)のように、デザインウィークがあります。
パリ・ファッションウィーク(PFW®️ マルアール/レジストレーションシンボルが付いている、つまり登録商標)は年に6回、デザインウィークはメゾン・エ・オブジェと並行して1月と9月に開催されます。
ここではデザイン界のスター、新鋭たちによるライフスタイルにまつわる新しいコレクションが10日間にわたり発表されます。
パリ・デザインウィークが発行するガイドブックとマップを片手に、プロだけでなく誰もが参加できる!
GO, GO, GO FRANCE DESIGN WEEK !
この9月で20回目を迎えたパリ・デザインウィーク。
サンジェルマンデプレ、レアール/マレ/バスティーユ、オペラ/コンコルド/エトワールの3エリアで、250のブティック、ギャラリー、コンセプトストア、美術館などが参加。
ポストコロナを考える「レジェネレーション/再生」をテーマに、ニューコレクションやアートピースが発表されました。
ポンピドゥセンター!LA BOUTIQUE DU CENTRE POMPIDOU
さて、パリ・デザインウィークでいちばん期待されるコレクションとは?
それはここ、ポンピドゥセンター内のブティックにあります。(ライフスタイルのデザインオブジェに特化したミュージュアムショップ。)
このブティックを運営するフランス国立美術館連合(RMN)は毎回デザインウィークのために、オッ!というデザイナーとの限定コラボレーションオブジェを企画します。
今シーズンは、知る人ぞ知るベルリンのグンナール・レンシュ/ GUNNAR RONSHE とステファン・モロイ/ STEPHEN MOLLOY が2014年に立ち上げたファンダメンタル/ FUNDAMENTALによる「グラヴィティー/ GRAVITY」。
ポンピドゥセンターの外観をイメージしたレッド&ブルーのステンレス製餅網?にも見えそうなのですが。
いやいや、これはトレイなのです。
イタリアの職人が加工したステンレスを、ベルリンの障害者が組み立てました。
ベルリン大学で建築を学んだファンダメンタルのふたりは、数学と建築の要素を取り入れながらオブジェをデザインしていきます。
このトレイは、レッドの軸とブルーの軸を交差させることで、色を変えながら菱形になったり正方形なったり。
卓上綱引きのような動作で形状の変化を知的に楽しめます。
このグラヴィティー、病みつきになりますよ。
(ポンピドゥーに縁のある「リサとガスパール」のチャームをこれに載せたら、ファンダメンタルのふたりは怒るだろうか。)
ポンピドゥセンターセレクション
モダンアートの殿堂ポンピドゥーのデザインウィークです。
このトレイだけではありません。
同ブティックのディレクターとっておき、今シーズンデザインウィークのテーマ「レジェネレーション/再生」からサステイナブルセレクションが続きます。
そのうちのいくつかをご紹介します。
ECTOR / エクトール
メード・イン・フランスのリサイクルスニーカーブランド。
ペットボトル6本が1足のスニーカーに!履きふるしたスニーカーは再度リサイクルされる。
スタンダード/109€、ウォータープルーフ/125€
MARON BOUILLIE / マロン・ブイリー
写真をモチーフにしたエコテキスタイルプリント製品のパリブランド。少数生産、メード・イン・フランス。
ポンピドゥセンター独占プロダクト、オーガニックコットンとリサイクルポリエステルを素材にしたホワイトブックカバー(17€)は、自分でカスタマイズできるのがウリ。
読書がさらに楽しくなる!
Collection REMEMBER ME
Tobias Juretzek / デザイナー(ベルリン)
Horm Casamania / 制作(イタリア)
捨てたくない、リサイクルにも出したくない。そんないつも一緒にいたい愛着のある古着をアップサイクルしよう。洋服ではなく、ファニチャーに!
デニム、Tシャツ、バック、はたまたフキン、エプロン、テキスタイル製品ならなんでもOK。
これをイタリアのアトリエに送ると、3週間後に頑丈な椅子、または机に生まれ変わり、この世にひとつだけの「リメンバーミー」となって戻ってくる。
ブティックに展示してある「リメンバーミー」チェアーとテーブルを試してみたのですが、テキスタイルが本当にファニチャーにアップサイクルされていて、驚き!
そこでこのブティックのディレクターが一言。
「リメンバーミーコレクション、数年前から知っていたけど。当時は早すぎたんですよね、一般向けとしては。それがコロナで消費の動機が急激に変化して、このコレクションをポンピドゥーで紹介するのは、これを逃したら遅い、今しかない!、と判断したんですよ」と。
チェアーの価格は925€。衝動買いには遠い価格ですが、もしオーダーするなら古着選びを徹底しなければ。
思い出したくない出来事を持つTシャツなんか選んでしまって、座るごとに「リメンバーミー」なんて、笑えないですよね。
デザインウィーク、マレ辺り
BENSIMON ベンシモン
HOME autour du monde / ホーム オトゥール・デュ・モンド
ポンピドゥセンター周辺のデザインウィーク参加ギャラリーやブティックを散策したのですが、フランブルジョワ通り(Rue des Francs Bourgeois)にあるセルジュ・ベンシモンのコンセプトストア、「HOME autour du monde / ホーム オトゥール・デュ・モンド」のホーム、テーブルウェアセレクションCHROMATIC SHADES がとても人気でした。
ナチュラル、パウダーのニュアンスに鮮やかなポイントカラーのグラフィックなオブジェ。ボタニック、エスニックなモチーフ。リネン、バンブー、ラフィアの天然素材を中心としたホームアイテム。アフリカ、イスラエル、ヴェトナムを旅しているようです。
「ベンシモン」は、41年前にスニーカー「La Tennis ラ・テニス」でブレークし、アパレル、そしてホームへと展開を広げていったパリブランド。
30年前、当時まだライフスタイルなんて言葉がなかった頃から、洋服とホームをミックスしたこのコンセプトストアをマレにオープン。
セルジュはまだ若かりし頃、実弟のイヴと世界を旅から旅へと渡り歩きながら、現地の文化や習慣をいっぱい学んでセンスを身に付けた、と話してくれたことがありました。
この経験が、「ホーム・ベンシモン」ラインのDNAとなったわけです。
セルジュは30年前からこの「ホーム」で、ウィズ・コロナの時代に求められるコンセプトショップを展開していた、と言えるかも。
JASPER ZEHETGRUBER
寄付金の美
デザインウィークではコマーシャルなことだけでなく、デザイナーたちのプロジェクトも発表されます。17世紀の私邸が立ち並ぶフランブルジョワ通り。
そのうちのひとつ、オテル・ドゥ ・クーラーニュ(現メゾン・ドゥ ・ローロップ/ヨーロッパ会館)の中庭にはオーストリア人デザイナー、JASPER ZEHETGRUBERによるインスタレーション、「寄附金の/La Beauté du Don 」が展示されました。
一見、メタル素材の彫刻、または極太の針金細工、それとも巨大な鳥籠のようですよね?
ところが、よーく見ると、あれこれって5サンチーム(セント)??
あー本当だ、小銭でできているではないですか!今更なのですが、プロジェクトのタイトルが示す通り、5サンチームコインは寄附金です。
このデザイナーは、「お願いしながら井戸に小銭を投げる、橋に南京錠をかけて愛を誓う、特別な場所に小石を重ねる。寄附金もこうした儀式があってもいいよね?」とこのプロジェクトをカタチにしました。
彫刻となった5サンチームコイン、こうして眺めると美しい。狙い通り、「寄付金の美」。
このデザインウィークで集まった5サンチームは、トーゴのコミュニティーに寄付されます。
コロナ禍を機に、「お家」の役割が大きく変化しています。
お家の空間で自分と一緒にいるモノに求めるのは、デザイン、機能性だけでなく、サステイナビリティーもとてもとても重要です、よね。
パリ・デザインウィークよ、お家の中身をよい方向へリードするイベントになってね!
ア・ビアント!
それではまた!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。