【記者の目】合繊メーカーのスポーツテキスタイル

2019/12/29 06:29 更新


 ゴールデン・スポーツ・イヤーズに湧く日本。ラグビーワールドカップ(W杯)では、日本代表のレプリカユニフォームや関連グッズが期間中にほぼ完売したことは記憶に新しい。合繊メーカーのスポーツウェア向けテキスタイル販売は、こうした特需のほか、カジュアルウェアの高機能化や環境配慮型素材への関心の高まりなど、追い風要因がある。

 生産体制でも変化する顧客の要求に応えながら、日本企業として国産品質を作り出す。帝人フロンティア、東洋紡STC、東レ、ユニチカトレーディングの4社に国内を中心とした市場の現状を聞いた。

汎用化と環境配慮

 国内開催の国際大会で、競技用ユニフォームなど特需をつかんだ企業はある。一方、国内のスポーツウェア市場全体には、現時点で大会の影響による盛り上がりをそれほど感じないという声もある。アスレチック向けの国内市況は振るわない。東レは「機能性より低価格や短納期が優先される」ラインに自社の素材が合わないという。一方で「機能性重視の高価格帯」は順調だ。ユニチカトレーディングは、海外販売を増やしつつ、春夏向けで国内も暑さ対策の機能のある素材を軸に回復させたい考え。今後、「国際大会で注目されることで、各競技の人口が増えてくれれば」(東洋紡STC)と期待する。

 本来の用途で浮き沈みがある一方、スポーツ素材が使われる分野は広がっている。背景には、ストレッチ性をはじめとする着用快適性や優れたイージーケアなどの機能性が、衣料全般に浸透したことがある。紡糸技術や織り・編み、加工技術の高度化により、天然繊維の風合いを再現できるようになったことも一因だ。東レは、カジュアル向けにストレッチ素材などセットアップへの引き合いが年々増えている。東洋紡STCは、スポーツで培ってきたニットドレスシャツのノウハウを生かし、ブレザーなどスクール向けを扱っている。

 もうひとつ、無視できない要素に、海外から始まったサステイナビリティー(持続可能性)の流行がある。スポーツ産業界は自然環境との調和を重視するために、特に先行してきた。国内でも、アウトドアを中心に需要がここ1年ほどで高まっている。合繊メーカー各社は現在、国内向けに素材での提案にとどまっているが、海外ではトレーサビリティー(履歴管理)の可視化を求める動きが強い。いずれは合繊メーカーも「サプライチェーン全体を通した取り組みが求められる」(帝人フロンティア)と見る。東レは、今秋、リサイクル原料のトレーサビリティー保証する素材を扱う事業ブランドを立ち上げた。リサイクル原料の品質向上により、従来のリサイクル繊維より機能性を高められることで、高機能スポーツウェアにも使えるという。

スポーツ素材の需要拡大を期待する(帝人フロンティアの20年秋冬展示会)

海外生産と国産品質

 テキスタイル生産の現場は、低コストと短納期を強く要求される傾向にある。合繊メーカーは、さらに、品質・コスト・リードタイムの最適なバランスがとれるサプライチェーンを考えるアパレル企業が増えていることで、各工程の生産地を提案に積極的に盛り込む動きがある。展示会では生産地を一覧できるパネルの展示が目立つ。ユニチカトレーディングは、「グローバルオペレーション」対応の品番の生地サンプルにシールでマークを付けた。

 近年はASEAN(東南アジア諸国連合)で縫製するアパレルメーカーが多いため、生地もその近場で生産する動きにある。とはいえ、スポーツテキスタイルの優れた機能性を発揮するために、合繊メーカーは、国内産地と組んで生産することも多い。織り・編みや染色加工で優れた技術力を持つ産地の担う役割は大きい。産地が苦境に立たされるなか、帝人フロンティアは「国内産地の技術力を強く大きくしていくには発信が必要」として、毎シーズン新素材を開発することで国産品質をアピールしている。

 国内市場では、少子高齢化や低価格志向のもとで規模拡大を目指すのは難しい。競技人口に左右されるスポーツ分野では、その影響はさらに大きいだろう。カジュアル分野などニーズに合わせ、柔軟に取引先を広げていく動きは、今後も続くと思われる。サステイナビリティー志向も同様に、国内外でスポーツ分野以外に波及している。サステイナビリティー素材の消費者としてカギになるのは、環境問題や社会課題への意識が強いジェネレーションZ(95年以降に生まれた世代)だ。海外の拡販にも大きく関わる。視野を広げることで、スポーツテキスタイルの販売にも、さらなる成長の可能性がある。

小島稜子=本社編集部合繊・テキスタイル担当

(繊研新聞本紙19年11月18日付)

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