消費者との接点において、人型のCGモデルをリアルタイムに動かすバーチャル技術を継続的に活用する事例が増えている。コロナ禍で非接触の接点を持つ必要性が強まるなか、活用方法と実際の効果を捉えることが重要だ。
(小島稜子=東京編集部川上担当)
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企業のキャラクター
人型CGモデルのビジネス活用の手法は現在、動画投稿・配信するバーチャルユーチューバー(Vチューバー)と、アバター接客に大きく分かれる。なかでも自社独自のVチューバーを立ち上げる企業の増加が目立つ。
外部でなく自社独自のVチューバーを起用すると、自社IP(知的財産)として柔軟な運用のもと、自社Vチューバーのファン=企業・ブランドのファンという構図を作ることができる。この戦略は目新しいものでなく、Vチューバー以前から企業が独自に公式キャラクターを持つ文化として続いている。
近年は、SNSの企業公式アカウント上でキャラクターが投稿している設定を持たせることで、公式キャラクターに人格を与えてきた。Vチューバーの特徴は、そこへさらに身ぶりや声などをアニメーションに比べ省力で加え、より実在感を与える形でキャラクターを発信できる点だろう。
獲得できるファン層には、新規顧客、なかでも若年層を中心とするアニメ・漫画愛好者が期待される。近年は、食品や建築分野のテレビCMにポップなアニメが使われるなどアニメ・漫画が一般に広く受け入れられる土壌があり、若年層ほどターゲットの母数は多いと考えられる。
ミズノが9月に立ち上げた男性Vチューバーユニット「デポルターズ」は、競技人口の減少を背景に、「スポーツに深く関わらず、同社との接点が少ない人」に向け、筋トレ紹介やeスポーツとしてのゲーム実況の動画、試合観戦のポイントのツイートなどを発信している。ツイッターでは、ファンアートや周囲の人にデポルターズをすすめるツイートも散見され、根強いファンを獲得しているようだ。
人型CGモデル、中でも3D・CGを用いる媒体だからこそリーチできる全く新しい層に、アバターユーザーがいる。ヒューマンフォーラムのカジュアル専門店「スピンズ」の公式Vチューバー「紡ひなた」は、同じVチューバーにもファンを持つ。Vチューバーは、ユーチューブ上で活動する者だけで1万3000人を超える(20年11月9日時点、ユーザーローカルによる発表)。「アバターユーザーは9割が配信者でなくプライベートに使っている」として、12月中旬からアバター向けバーチャル服のオンライン販売を始める。
Vチューバーの活動は、購買など消費者の行動にも直接つながる。キャラクターIPのマネタイズ方法というとグッズ販売が王道だが、アパレル企業のVチューバー活用では必ずしも最適解でない。ヒューマンフォーラムは、Vチューバーがデザインした商品の受注販売より、Vチューバーが既存商品を着るモデル企画に実売の手ごたえを得た。
限定商品が既存商品より高価だったこともあるが、「モデル企画のほうが、Vチューバーもファンも熱量が高かった」という。協業したVチューバーからは、「普段着らしいデザインの衣服データでおしゃれできたこと」が喜ばれた。
近年は、イラストなど元データを作る技術があれば、オリジナルのリアルグッズを個人でも作るサービスが充実している。一方、実在するブランドの商品モデルや、リアルクローズなデザインのバーチャル服の開発などは、アパレル企業主導だからこそ実現できることであり、消費者やVチューバー自身が高い価値を見いだしていると言える。
人を生かす普遍性
アバター接客では、アバターを通して伝わる情報を制限することで、互いの警戒心や緊張を緩和する効果が挙げられる。接客を敬遠する客に対する一つの解決策になる。
目的に沿ったモデルのデザインが重要だ。写実に寄せると親近感が増すが、一定以上は違和感を抱くようになる。ワコールの「アバカウンセリングパルレ」では、リアリティーがあり共感を得やすい程度のデフォルメ(誇張表現)を意識したという。さらに名前以外の設定は決めない、操作する販売員を限定しないなど、匿名に近い普遍性を徹底している。設定を作り込み、特定のキャストである「魂」が操作するVチューバーとは対照的だ。
Vチューバーがキャラクター固有の人格を強調しファンを得る一方、アバター接客は匿名に近い普遍性に着目されている。同様のバーチャル技術を用いても、活用方法によって違う効果をもたらせる。目的を明確化し、適切に選ばなければならない。
小島稜子=東京編集部川上担当
(繊研新聞本紙20年12月7日付)