「ヴァンキッシュ」を中心に数多くのブランドを手掛けるせーのの石川涼社長と、ウルトラテクノロジスト集団を率いるチームラボの猪子寿之社長。ウェブ全盛の世の中で大きく変わる消費者の価値観に着目し、既存業界の常識を揺さぶる両者が、雑誌「eyescream」の連載「猪涼対談」の番外編として、JFW-IFF(インターナショナルファッションフェア)最終日におおいに語った。
”ただ、かっこいいだけの店はもう終わると思う”ー石川
ー2人が出会ったきっかけは?
石川 弟から、どうしても会ったほうがいい人がいると言われたことですね。それで会いに行ったのが最初です。
猪子 共通の友人がいて、たまたま、お兄さんが石川さんだった。
ーそこからどういった風に仲良く?
石川 実は、自分は友達が少ないのですが、会ったら意気投合して一気に仲良くなりました。
ー第一印象は
猪子 石川さんに会った時、僕パンツ一丁だったんです。そんな感じで超リラックスモードだったため、あまり覚えていないです(笑)。
―石川さんの会社がチームラボハンガー(下、写真)を取り入れた経緯は。
石川 109メンズが改装で、6階にある自分らのショップが3階に移ることになりました。僕は、直営店でも何でも、ただの物販は終わりだと思ってて、洋服が並んでいるだけのカッコいいお店は、もうアマゾンにはかなわない。で、お客が来店したくなるような何かしらの仕掛けが必要だと思ったんです。そのタイミングで猪子さんと出会ったので、チームラボハンガーを導入することを決めて、なかば強引に進めました。そのあと、台湾に猪子さんと一緒に出張に行くことがあって。
猪子 私は、講演で行ったのですが、会場のビルの1階まで行った段階で、その話が大きくなって、結局、講演をキャンセルしちゃいました。
石川 社内は、完全に反対だったんです。猪子さんの講演キャンセルの話にも繋がるのですが、台湾に居た時に本社から電話がかかってきて。店舗担当のスタッフからすると、6階から3階に移動するだけでも博打なのに、さらに訳のわからないハンガーを導入してリスクを高めるのかと。僕の計画では、一番いい場所にハンガーを設置する予定だったんですが、店舗スタッフからは、一番奥まった場所に変更した方がいいのではないかと言われました。それを聞いて、激昂しちゃって。それを横で聞いていた猪子さんが心配してくれて講演をキャンセルしたというのがいきさつです。ただ、オープンしたら売り上げは倍増しました。
”(文脈を理解しなくても)楽しめるコンテンツが必要”-猪子
ー石川さんはネット媒体で、「ファッションは“終わる”」と答えています。アパレル経営者としては、相当刺激的な発言だと思いますが。
石川 インタビューを読んでいただくと、趣旨は理解してもらえると思います。もう、過度なおしゃれは必要ないのではないかという話です。結局、世の中を見渡して、そんなに変わった服を着ている人なんていますか。
ーおしゃれの必要性がなくなってきたということですか。
石川 海外に行くことが多いのですが、外国人と話していると、もっと大事にしていることが多いと感じます。宗教とか生き方とか、そういったライフスタイルを重視している。見た目は二の次。逆に、日本は、格好重視ですね。何か表面的過ぎる気がします。もっと大事なことがあるんじゃないでしょうか。
ー猪子さんはどう思いますか?
猪子 第一印象を形成する主なファクターは、顔とファッション。その第一印象が最近、オンライン上に移り始めている。フェイスブックやツイッターなどで先に知り合うという現象が普通に起きている。古くはミクシィ時代から起きていたことですが。以前、若い子達の合コンへ参加することがありました。会の前日、参加女子メンバー全員のミクシィプロフィールが送られてきたんです。そういうことが、さらに加速している。となると、いい服を着て、第一印象を良くするよりも、WEB上の写真を加工しまくったほうが効果的になってくる。そしたら、石川さんが、そんな潮流に沿う新しいファッションを見つけた!、と言い出した。「マスクだ!!」とね。
ーそれは、石川さんが展開している「ゴノタン」(下、写真)ですね。どういう風に思いつかれたのですか?
石川 ファッション業界以外の人たちと話しているなかで思いつきました。世の中は、写真を使ってのコミュニケーションにシフトしているので、詳しく説明しなくていい商品はアドバンテージがあります。(言葉を介せず)どの国の人でも理解できることはメリットです。
猪子 石川さんは、「目は、メイクでいくらでも可愛くできるけど、口元を可愛くするには整形手術しかない」って面白いことを言うんですよ。確かに、口元を隠すと、女性はより可愛く見えますね。
石川 99%可愛くなりますね。
猪子 これは、逆転の発想ですよ。アラブ圏に行くと、みんな顔を隠しているので美女しかいないじゃないかという感覚をおぼえますもんね。
石川 今は個人がダイレクトに世界中と繋がれる時代です。琴線に触れるモノがあると、友人など自分のコミュニティーのメンバーについつい紹介したくなる。だから、そんな商品が強い。ゴノタンは、ほぼ広告費は使っていないにもかかわらず、購入者が勝手に宣伝してくれて、初年度に3万点を売り上げました。洋服では絶対に考えられないペースです。2年目は、1ヶ月で3万個が売れました。スピード感がぜんぜん違う。
ー逆に、これまでの背景ありきのファッションは厳しくなると思いますか?
石川 コレクションとか、一部の業界人しか見られないものは必要ないと思う。
猪子 インターネットが普及して、情報量が激増した。それこそ、人類が何千年もかけて積み上げた情報よりも多い情報を1年で生み出している。そうなると、逆に、メディアを使って、記号、例えばブランドロゴの価値を共有するのが難しくなる。小さなコミュニティー間にのみ通用する、より密度の高いコンテンツか、あるいはコンテキスト(文脈)や背景を共有しなくても成り立つ、わかりやすいコンテンツが受け入れられる。日本では、背景の理解=予備知識を前提としたハイコンテキストタイプなものが主流。だから、例えば、アニメなどは、一部のマニアは熱狂するが、逆に普通の人は存在すら知らないという状況が生まれる。状況を活性化するには、コンテキストを共有しなくても、楽しめるコンテンツを作ることが大事だと思います。
”やれ、素材がどうだとか、若い世代は求めていない”-石川
ーファッション分野はオタク化していると思いますか?
石川 車もそうですが、燃費の良さなどのスペックを誇ることにはもう特段の関心を惹かれません。それよりも、例えば、別の形にトランスフォームする車ができないかと考える方が大事だと思う。そっちのほうが、テンションがあがる。
ーなるほど。
石川 ファッション業界は、そういう大切さをわかってないと感じます。肩の力を抜いて楽しめばいいのに、やれ素材がどうだとかとか、そういう瑣末なことばかりに囚われている。ある程度の基準をクリアしていれば、そんなことに固執しなくよい。若い世代は求めていませんから。僕は、もうすぐ40歳になるんですが、多分、そういうディテールにこだわるのは40歳以上の世代だけだと思う。安く買えるものが多くあるのに、それを否定するファッション業界の考え方にこそ疑問を感じます。安くていいもののために、業界がだめになったと批判する業界人のほうに問題があるのでは。
ーお2人とも海外に行くことが多いと思いますが、海外での経験から得たものはありますか?
猪子 さっきの話にもつながるのですが、ここ10年ほどで、文脈の理解が必要なものよりも誰が見ても凄さがわかるものを重用する傾向が強まったと思います。ある時、アーティストのジェフ・クーンズ(下、写真)の回顧展を見る機会があったのですが、時間の経過に伴う作風の変化が面白いと思いました。
ー例えば。
猪子 初期の作品には、量販店で売っているような普通の掃除機を置いただけの作品があるのですが、これは超ハイコンテキストなものの代表で、その背景を知らないとよく意味が把握できない。逆に、近年の作品群は、金属製のバルーンアートなど巨大でわかりやすいものが多い。コンテキストの共有なしに誰が見てもすごさが理解しやすいものです。美術マーケットでは、後者のほうのセールスがいいようで、コンテキストの共有がなくても感動できる作品がメーンストリームになってきています。
石川 単に、物を買うというよりも体験をするということが大切だと思います。ふと気付いたら、コーヒーの砂糖までアマゾンで買っているような状況では、単に買い物に行くという意味や概念はもっと希薄になっていくと思う。私自身、毎年正月の初売りはレジに立つようにしていますが、実は初売りや福袋もネットで買える。それでも、ショップの前には朝から行列ができる。
猪子 セールに関しては、お祭りという側面もあるのではないか。目の前の対象を狩猟する原始的な欲求が満たされるのでは。逆に、それをより加速する演出をすれば、より盛り上がるじゃないかと思う。
”完成されたデザインや空間はユーザーには受けない”-猪子
ー以前、タイに面白いショッピングセンターがあるとお話されていました。
石川 サイアムセンターですね。面白いですよ。とにかくデタラメなんですよ。
猪子 遊園地みたいですよね。階段がL字状になっていて、上から野菜が落ちてくるとか。
石川 天井がモニターだらけだったりするんですが、そこで館内のテナントのCMとか流せばいいのに、全く関係ない映像が流れていたりする。意味がわからない面白さがある。
猪子 非常階段が水族館だったりもするんですよ。テナントはタイブランドが多いのですが、とにかくテンションが上がりすぎて、普段は買い物をあまりしないけど、いっぱい買いましたね。人間には、テンションを記憶するために買い物をするという本質があります。ライブに行ったら、タオルとかTシャツとか買うでしょう。物を残さないと興奮を忘却してしまう。ライブ会場にお店を出したほうが、売り上げが取れるかもしれない。サイアムセンターは、オープンして30年目で大リニューアルしました。30年前のオープン時には、スタッフは日本の代表的な商業施設を全部視察していた。しかし、今回のリニューアルに際しては、日本には誰も行かなかったそうです。もう日本の施設からは学ぶべきものがないという判断をしているんです。
石川 施設内に、お客が参加できるデジタルアート作品がたくさんあります。穴の中に顔を突っ込むと映像が流れるオブジェとか。その結果、来た人は写真を撮って勝手に宣伝してくれる。既存のメディアを使わなくても拡散するんです。
猪子 従来からの専門家がデザインしたような完成された空間を世界は求めてない。アトラクションを設置するなどした空間の方が、ユーザーに受ける。統一された空間であれば、客は写真すら撮らない。完璧なデザインよりも面白いものが設置されてるほうが盛り上がるんです。
ー質疑応答に入ります。
ー①建築に従事している者ですが、完璧な建築がダメだという意見には共感しました。面白いものを作るためにアートを使用するのは、アプローチの一手法としてわかるのですが、逆にどういう建築なら興味を持ってもらえますか?
石川 答えになっているかどうかわかりませんが、先月、ベネチアに行ってダニエリという著名なホテルに泊まったんですね。すると、床や壁がグニャグニャ変形しているんです。海の近くなので、自然に歪んだだけかもしれないが、真っ直ぐに歩けないくらいでした。でも、それくらいでたらめだと興味を引かれるんじゃないですか。
猪子 東京には、意匠としての建築はもう必要ないと思います。国や文化が成熟しきっているのでマッチしないでしょう。シンガポールとかなら成長の熱気がムンムンだし、湾岸部に巨大なオブジェがあってもマッチするので意味があるとは思いますが。固定化されて動かないものよりも、可変するものやデジタルとの境界が曖昧なものなどが面白いと思いますね。
ー②ECをやっています。WEBでわくわくするものとは?
猪子 WEBはメディア。WEB単体で完結するものは面白くないんじゃないですか。
石川 僕は屋台をやろうと思っています。やるんだったら、渋谷でウケるものを作りたい。原宿だと行列のできるクレープ店があるけど、渋谷の駅周辺にはありません。やるんだったら、とにかく強烈なやつ。渋谷なので餡子を使ったハチ公の○○○みたいな(笑)。そのくらいだと、女子高生とかが反応しSNSで拡散してくれる。そこまでの状況をつくるとWEBは楽しい。あくまで、合法の範囲で、“何やってるんだ!この人”というレベルのインパクトを与えるのが大事だと思いますよ。
ーありがとうございました。