求められる消費増税延期 チェーン協が反対表明

2019/03/03 06:45 更新


【記者の目】求められる消費増税延期 チェーン協が反対表明

 10月の消費税率引き上げは見送るべきではないか。高齢化などの社会変化のためとして今回の消費増税は受け入れられており、多くの小売業で対応が検討されている。

 しかし、消費の落ち込みを回避するために打ち出される施策は複雑で、小売りの現場の負荷は想像に難くなく、消費者の混乱も予想されるところ。そして、回避策により税収増がほとんど見込めないとあれば、何のための増税かわからない。

(田村光龍=本社編集部大型店担当)

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増税反対に転じる

 「悪名高き消費増税」。18日に行われた日本チェーストア協会の新年賀詞交換会で小濱裕正会長(カスミ会長)は、10月に予定される消費税利率の引き上げを批判した。軽減税率、ポイント制度の導入に反対してきたが、ここで消費増税そのものに反対を表明した。

 イオンリテールやイトーヨーカ堂などのGMS(総合小売業)、食品スーパーを会員とするチェーン協に人口減や高齢化、地方の疲弊といった課題への危機感は強い。消費増税はそうした社会の変化への対応が主眼だ。しかし、商品ごとに税率が変わる軽減税率は、売り場のオペレーションにかかる負荷が明白で、チェーン協は当初から反対してきた。同じ商品でも食べる場所で税率が変わるというから、なおさらだ。

 さらにキャッシュレス促進と合わせて出されるポイント還元は、消費税の引き上げ分を上回る5%から、2%、ゼロと事業者が区別され、会員企業の多くには緩和策にならない不公正な仕組みとして不満を募らせていた。

 プレミアム商品券なども含め、選挙をにらんだバラマキにも映る。そして並べられた緩和策によって、税率を引き上げた分の税の増収分のほとんどがなくなるとなれば、社会の変化への対応は進まず、負荷だけが増える形だ。

 さらに、それでも消費が後退しないか、駆け込み需要とその反動が大きくならないかは「五里霧中」。消費増税は規定路線ではあったが、ここまでマイナス要因が重なれば反対に転じざるを得ない。

 チェーン協は、「反対運動をする覚悟がいるのでないか」としており、春の統一地方選挙、夏の参議院選挙に向けてアピールを強めることが予想される。現状はマスコミの反応の鈍さはあるが、反対の世論がどこまで広がるかにかかる。ファッション関連は軽減税率の対象外、そしてポイント制は企業ごとの差となって表れる。企業規模によるだろうが、消費減退の懸念だけでなく歓迎できない内容だ。

軽減税率は税率が異なる商品が混在、店頭の負荷が懸念される(イメージ写真)

各企業で進む準備

 もちろん、各企業では、消費増税に向けた準備を怠ることはできない。

 「変化をどうビジネスの機会にするか」とはイオンモールの吉田昭夫社長。消費増税を差がつく局面と見て、「(増税分を)払っても行きたいと思ってもらえる」施設になることを目指す。同様の見方を示している経営トップは少なくない。もちろん増税はマイナス要因だが、「ネガティブにばかりは言っていられない」。

 「19年年内は」と前置きしつつ、「前回(14年)と違い、対応を間違えなければ、そんなマイナスにはならないのではないか」とは、しまむらの北島常好社長。2ポイントという上げ幅とともに、何よりも消費者への転嫁に力を注いでいた前回の引き上げと異なり、軽減策が目白押しで、「還元セール」もできそうな〝指導〟の変化を指摘する。

 ただ、総額一本だった同社の価格表示については、「個人的には本体価格にしたい」として見直すことを検討する構えだ。現在は特別措置法として可能になっている本体価格表示だが、総額表示義務自体の削除を見込むとともに、「10%で終わらないのではないか」と、消費税率の今後の引き上げを想定する。2ケタの消費税が乗る価格では、お買い得感が打ち出しにくくなるのは間違いない。一方で「世界の潮流は総額表示ではある」ともしており、検討は慎重になるが、まずは総額を残した上での二重表示にすることになりそうだ。消費増税は、新たな競争条件を作り出し、それぞれに変化を促す。

消費者の理解に懸念

 消費者は負担増の回避には努めるだろうが、軽減税率やポイント還元の理解が進むのか、大きな疑問が残る。消費者は増税された上に複雑な仕組みにさらされる。理解が不十分なままスタートすれば、小売りの現場の負荷はさらに強まるだろう。ここまで効果が分かりにくくなり、企業に負荷がかかる増税はなかったのではないだろうか。

 消費の落ち込みは回避すべきことだから対策をとるのは当然だが、それによって税収の増加分が相殺されても構わないのであれば、増税そのものを急ぐ必要がないともいえる。

 消費増税が本当に必要なのであれば、ここで複雑な回避策をとるのではなく、その代わりに、分かりやすく、現場に過剰な負荷がかからないあり方を検討、周知する期間を持つべきだろう。

(繊研新聞本紙年1月28日付)



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