エコ素材どうして今、話題? 欧州発で世界の一大潮流に 環境配慮がファッションに波及 新たなCO2の排出抑える
ファッションでエコ素材が注目されています。リサイクルポリエステルやオーガニックコットンなど様々な素材が登場していますが、どうして今、エコ素材が話題なのか。中村恵生記者が、お答えします。
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パリ協定やSDGs機に
最近、「サステイナブル」(持続可能性)というキーワードが世界的なファッショントレンドとして浮上しています。パリ・コレクション、ミラノ・コレクションで発表するようなデザイナーブランドや、H&Mなどファストファッション、グローバルスポーツブランドなど、ターゲットやブランドポジションの違いを超えて大きな潮流になっています。
サステイナブルの打ち出しの大きなポイントは素材、つまり糸やテキスタイルのチョイスが重要です。リサイクルポリエステルやバイオ由来の合繊、植物由来の再生セルロース繊維、オーガニックコットンなど様々なエコ素材が採用されています。
なぜ最近、エコ素材が注目されるようになったのでしょうか。一つは、欧州を中心に社会的に地球環境への関心が高まり、これがファッションに波及してきたといえます。とくに契機になったのは、15年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)と、同じく15年に締結された気候変動抑制を目指したパリ協定です。
そこでは各国政府の役割だけではなく、民間企業による経済活動でもサステイナブルの取り組みが重要とされ、これが経済活動の推進力として一気に注目されるようになりました。アパレル業界では、環境NGO(非政府組織)のグリーンピースが、20年までに有害物質排出ゼロを目指す「デトックス宣言」を提唱し、プーマ、ナイキ、アディダス、ザラ、H&M、ファーストリテイリングなど世界の有力企業が賛同しています。
実は長年の取り組み
ではエコ素材にはどんな物があるでしょうか。合繊だとリサイクル繊維が代表的です。合繊はもともと、石油を原料にしており、新しく作り出せば二酸化炭素(CO2)排出につながります。これを廃棄せずに再利用するのがリサイクルで、新たなCO2の排出を抑えられます。
多くの合繊は、高い熱を加えると溶けるという性質があります。そこで、使用済みの繊維を加熱して形を変え、再び繊維にして利用することが可能です。繊維から繊維にするリサイクルだけではありません。合繊で最も普及しているポリエステルは、身近なペットボトルとしても使われています。
日々大量に廃棄されるペットボトルは、リサイクル原料としても非常に有効です。分別回収した後、洗浄、粉砕し、ポリエステルの原料として使われています。
にわかに盛り上がりだしたエコ素材ですが、日本の合繊メーカーは、ずっと以前からリサイクル事業に取り組んできました。作業服などにエコマークがついているのを見られた方もあるかもしれません。日本では00年にグリーン購入法という法律が制定され、国や自治体は、エコマーク商品のような環境に配慮した商品の購入を進めています。
また、一部のアウトドアブランドは早くからエコ素材の活用を進めてきました。米国の「パタゴニア」はその代表格で、オーガニックコットンなどを積極的に使っているほか、ポリエステルの循環型システムなどにも参加してきました。こうして各社が地道に取り組んできた技術やサプライチェーンが、世界的なトレンドとも相まって花開きつつあるといえます。
価値認めてコストを負担
ではエコ素材の課題はなんでしょうか。一つはコストです。例えばオーガニックコットンは農薬を使わず、栽培の効率は大きく低下します。一部で始まっている植物由来原料を使った合繊も石油由来より大きくコストが上がります。将来的には普及に伴うコスト低下も考えられますが、そこに至るまでは価値を認めてコストを負担していくことが不可欠です。
また、完璧なエコ素材は存在しないといっても過言ではありません。捉え方やスタンスの違いによって「どれが正しいか」を決めるのは難しいからです。
ファーの問題はその一例です。昨年、グッチが動物愛護の観点からファー不使用を宣言し、話題になりましたが、「合繊由来のフェイクファーは生分解性がない」という毛皮業界からの反発も出ています。
いずれにしろ、エコ素材を使えば環境問題が解決する、という単純なものではありません。エコ素材をきっかけにサステイナブルについて広く考えていくというスタンスが重要なのだと思います。
(繊研新聞本紙10月15日付)